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第149話
「元々は、煜瑾 と文維 の間に誤解があってこうなりましたが、今は煜瓔 お兄さまが2人を誤解しているように私は思います」
思い詰める煜瑾に、玄紀 は言った。
「お兄さまが…、誤解?」
「そうですよ。お兄さまは、煜瑾と文維が心から愛し合っているとは思っていないのです。文維が煜瑾を騙し、煜瑾が騙されているのだと思っている…、そう思いたいのかもしれませんが」
玄紀はそう言って、茶目っ気のある笑みを浮かべた。
「煜瑾という『唐家の至宝』を失うことが、煜瓔お兄さまには不安なのかもしれません」
玄紀の言葉に、煜瑾は戸惑うように考え込んだ。
「煜瑾を失うことが不安になるほど、お兄さまもまた、煜瑾を愛しておられるのでしょうね」
「玄紀…」
そう言われて、煜瑾は自分のことに精一杯で、兄や執事たちの気持ちを考えていなかったことに気付いた。兄や執事たちは、煜瑾が文維や小敏 と会うことを禁じているが、それは決して煜瑾を不幸にしようと思っているのではないのだ。
「煜瑾は、お兄さまのためにも、文維と幸せになるべきだと思います」
心が揺らいだ煜瑾だったが、玄紀の言葉に、思い直した。
「私は、しばらくは文維の事だけを考えて生きます」
「それでいいのではないでしょうか」
玄紀は無邪気に微笑んで、余ったサンドイッチを口に運んだ。
***
クリスマスまでの20日間、煜瑾は規則正しい生活をし、食事もきちんと摂り、晴れた日は毎日執事を伴って邸内の広い庭を散歩して体力を付け、毎朝と夕食は兄の煜瓔と食卓を囲んだ。
「今朝の煜瑾は、随分と顔色がいいね」
食後のコーヒーを味わいながら、兄の煜瓔は元気そうになった煜瑾の顔を嬉しそうに見つめながら言った。
「はい。昨日は茅 執事と庭に散歩に出て、お昼もピクニックのようにお外でいただきました。たくさん日に当たって少し疲れましたが、その分、夜もよく眠れました」
以前と変わらぬような上品で穏やかな笑顔を浮かべる煜瑾に、煜瓔も茅執事も満足げだ。
「煜瑾が毎日元気で、ご機嫌よく、幸せに過ごしてくれたら、私も嬉しいよ」
優しい兄の言葉に、煜瑾は黙って頷いた。
「今日は、お医者様の往診がございますが、先生も、前回からもうご心配はないだろうとおっしゃっておられました」
茅執事が恭しくそう言うと、煜瓔は貴人らしい態度で口元を緩めた。
「昨日は思わぬ小春日和でしたが、今日は風も冷たいようですし、お医者様もいらっしゃるので、煜瑾坊ちゃまには屋敷内で、お遊びいただきます」
煜瑾の意志とは関係なく、茅執事が煜瑾の今日の予定を煜瓔に伝えた。
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