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第153話

「ねえ、昔のように、うちで働いている人たちの家族は、いつでもツリーを見に来ても良い事にしましょう。いつか、小さい子たちがたくさん集まって、賑やかで楽しいことがありましたね?」  煜瑾(いくきん)の提案に、その場にいた使用人たちは目を輝かせる。これほど立派なお屋敷に勤めていることを、家族や親戚に自慢をするチャンスだからだ。  特に古参の者たちは、往時のことをよく覚えていた。  ツリー見物に来た家族には、お菓子など細やかな物ではあっても、唐家からのプレゼントが貰えることになっていた。他に煜瑾が要らなくなったオモチャなどを部屋の隅に置いて、自分より小さな子が来た時には自由に持って帰っても良い事にしていた。  大人しい煜瑾が遊んだ後のオモチャは、激しく汚れたり、壊れたりすることも無く、まるで新品のようなものまであり、訪ねてきた子供たちは大いに喜んだものだ。  ふんだんに物を与えられる煜瑾はさほど執着なく、気持ちよく高価なオモチャなども人に譲るので、その浮世離れしたような容姿と相まって、子供たちの中には、本当に煜瑾を天使だと思う者までいたほどだった。 「それは…」  慈悲に満ちた煜瑾の申し出だったが、(ぼう)執事は眉を顰めた。  他人の出入りが多くなれば、それだけ執事としては目配りをすることが増えてしまう。その分、煜瑾の世話をする時間も削られてしまうのだ。 「今年は私も屋敷に居るのだし、ゲストのお相手を茅執事ばかりにお任せすることはしませんよ。私もお手伝いします」  煜瑾がニッコリしてそう言うと、茅執事も断り切れない。 「皆さんにお配りするプレゼントも、私が用意します」  そこまで言われては、茅執事も了解するしかなかった。 「分かりました。煜瑾坊ちゃまのお気に召すようにいたしましょう」  煜瑾が来客の相手をするというのであれば、却って自分の目の届くところに常に煜瑾が居るということになると、茅執事は気付いた。  部屋に閉じこもった煜瑾の様子を1時間おきに見に行くことを思えば、玄関ホールか、その隣の来客室、せいぜい上客用の応接室で誰かの相手をしているほうが、煜瑾を見守るのも安易かもしれないと茅執事は思った。 「では、皆さんに案内状を出しましょう。それからツリーの飾りつけを急いで。お客様をお呼びするなら、やはり古いオーナメントだけでは寂しいですね。ツリーは玄関ではなく玄関ホールの中央に置いて、この部屋ごとクリスマスらしく飾り付けましょう」  煜瑾は立ち上がり、活き活きとした様子で部屋中を装飾するイメージを膨らませていた。  そんな久しぶりに見る煜瑾の元気な姿に、茅執事は煜瑾の望む通りのクリスマスにしたいと思ったのだった。

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