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第155話
その頃、煜瑾 は、シャワーを出してそれらしい音を立て、コッソリ持ち込んだスマホで、羽小敏 とのチャットに夢中だった。
(私の作戦は上手くいっていると思います)
(煜瑾もなかなかやるね。ボクよりスパイに向いてるんじゃない?)
小敏からのメッセージに、煜瑾はクスリと笑った。
(ゴメンね、煜瑾)
(何が?)
(誤解させるようなことして)
ふと煜瑾の脳裏に、小敏がふざけて文維 の頬にキスしていた光景が浮かぶ。フッと苦笑する煜瑾だが、目撃した瞬間は、自分でも信じられないほど動揺していた。
今思えば、本当に何でもない事なのに。
(いいのです、もう。私もいけなかったのです)
(煜瑾が悪いなんてことは、何一つ無いからね)
慌てた小敏の返信に、煜瑾はまた頬を緩める。
(文維も、反省しているからね)
その名を目にしただけで、煜瑾は悲しくも無いのに涙が浮かんできた。
(ちゃんと煜瑾と会って話すまでは、このスマホを使わないって。頑固なんだよね)
小敏のメッセージを読んだ瞬間に、煜瑾は「違う」と、感じた。
文維は頑 なゆえに、小敏が用意したスマホを使わないのではない。煜瑾が文維と連絡を取っていたと知られれば、兄や執事に辛く当たられるのは煜瑾1人だと分かっているからこそ、直接会えるまでは接触しないように、配慮しているのだ。
煜瑾にこれ以上迷惑を掛けまいと、心配し、身を引いて考えてくれているのだ。
包文維が、そんな風に物を考え、行動する人間だということが、不思議に煜瑾には何も考えずとも理解できた。
(私こそ、ゴメンなさい。文維を信じることが出来なくて)
文字にして、煜瑾は改めてこれが今の自分の本心だと思った。
(泣かないでね、煜瑾)
そう打って来た小敏のメッセージの上に、煜瑾の涙が一粒落ちた。
(大丈夫です。もう、終わります。そろそろバスルームから出ないと疑われますので)
(おやすみ、煜瑾。1人じゃないからね)
(おやすみなさい)
最後のメッセージに既読が付いたのを見て、煜瑾は今のやり取りを全て削除した。
そして、急いでシャワーを浴びて、パジャマに着替え、お気に入りのフカフカのローブのポケットにスマホを忍ばせた。
バスルームを出て寝室に戻った煜瑾は驚いた。
「あれ?今夜は胡娘 さんなのですか?」
いつも、煜瑾が入浴中にメイドがベッドメイクをしてくれる。大抵は煜瑾が出てくる頃には仕事を済ませて、誰も居ないことが多いのだ。
「ええ。2人のメイドのうち、安安 が休みを取っていましてね。玲玲 の方は、デートがあって夜は残れないっていうものですから」
決して愚痴ではなく、まるで煜瑾に家族の動向を知らせるかのような軽い口調で胡娘は言った。
「そうなのですか。でも、こうして胡娘姐 さんが寝室にいてくれるのって、本当に久しぶりですね」
煜瑾は心から嬉しそうに微笑んだ。
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