160 / 201

第160話

 (とう)家の運転手である(おう)さんに送られて、唐煜瑾(とう・いくきん)申玄紀(しん・げんき)は、兄・唐煜瓔(とう・いくえい)が代表を務める「皇輝信託(ロイヤルシャイン・トラスト)」のクリスマスパーティーの会場である、錦江飯店貴賓楼にやって来た。 「ありがとうございました」  玄紀は、このパーティーの後、空港に向かい、所属チームがある大連に帰るため、大きなキャリーケースを王さんに車から降ろしてもらった。 「煜瑾さま。お楽しみになって下さいね。もしお疲れになったら、ご連絡下さい。すぐにお迎えに参ります」 「ありがとう」  王さんの心遣いに、煜瑾は笑顔で感謝を述べた。  大きなキャリーケースをガラガラと引きながら、玄紀と煜瑾が貴賓楼に入ろうとすると、入口でホテルのセキュリティ係に止められた。 「今日のパーティーの会社の者です。こちらは私の連れです」  煜瑾は、慣れた様子で社員証を見せた。  それを確認したセキュリティ係は、連れだという男の顔を見てビックリする。 「あ!サッカーの申玄紀選手ですよね!」  サッカー選手としてだけでなく、タレント並みに広告に出ている有名な申玄紀を前に、さすがのセキュリティ係も興奮している。 「一緒に、写真撮ってもいいですか?」  セキュリティの仕事柄、さすがにマズイはずだが、玄紀は快く了承した。 「握手してもらっても?」 「もちろん、いいですよ」  気さくに応じて、玄紀は少し離れて待っていた煜瑾の近くに駆け寄った。 「玄紀は本当に人気者なのですね」 「やめて下さい。煜瑾にそんなことを言われると、なんだかくすぐったいです」  2人は仲良く笑いながら宴会場へ向かった。すでに時刻は7時を回っており、受付やクロークは人で溢れていた。 「アッ!唐煜瑾さまだ」「え?あの『唐家の深窓の王子様』?」 「そのお隣って、有名な申玄紀選手じゃない?」  「皇輝」グループの社員たちは、煜瑾と玄紀に気付き大騒ぎとなった。だが、あまりにもどちらも大物過ぎて、誰も声を掛けることが出来ない。 「煜瑾!」  そこへ、グループの代表であり、煜瑾の兄である唐煜瓔が到着した。左右にいかにも有能そうな秘書を従え、まるで皇帝のような威厳だ。 「お兄さま」  煜瑾が笑顔で迎えると、煜瓔は満足そうに頷いた。 「忙しいのに、よく来てくれたね、申玄紀くん」 「ご招待ありがとうございます」  玄紀の荷物は秘書が預かり、煜瑾を挟んで、玄紀と唐煜瓔の3人は、煜瑾が楽しみにしていたクリスマスパーティーの会場内に入った。

ともだちにシェアしよう!