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第161話
「これが、今日のために買ったスーツだね?とても美しい色だが、煜瑾 にしては珍しいね」
今日の煜瑾は最高級のシルクで仕立てた、ロイヤルブルーの輝くような光沢のあるスーツだった。ジャケットの衿と、折り返したデザインの袖口、そしてスラックスの外のラインに、ゴールドのパイピングで縁取りがしてあり、本当にヨーロッパの王族の正装のような気品と威厳を感じさせる、存在感のある上下だ。
目立つことを好まない煜瑾にしては、色合いにしろ、デザインにしろ、人目を引くこのスーツを選ぶとは珍しい、と兄の煜瓔 は思った。
「クリスマスなので、華やかな方がいいかと思いました。それに、この色がとても素敵で、青は私には似合わないかと思ったのですが、このロイヤルブルーは茅 執事も似合うと言ったので…」
「とっても、似合っていますよ、煜瑾!本当に絵本の王子様みたいです」
玄紀 が手放しで褒めると、煜瓔も満足そうに微笑んだ。
「確かに、これならこの広い会場のどこにいても、すぐに煜瑾の居場所が分かるしね」
「そんなに派手だったでしょうか」
ちょっと恥ずかしそうに煜瑾が笑うと、話をしている煜瓔や玄紀だけでなく、遠巻きに見ていた社員たちも、魅了された。
ブルーのスーツの下は淡い水色のシャツブラウスで、ネクタイはゴールドの地にモダンな植物画が描かれた、ウィリアム・モリスのテキスタイルデザインのネクタイだった。恐らく、このシャツとネクタイだけで、その辺の社員のスーツは買えるだろう。
パーティーはつつがなく進行し、グループの代表である唐煜瓔のスピーチや、乾杯、優秀社員の表彰など歓声が上がるたびに、煜瑾は会場のあちこちで、玄紀と共に若い社員たちに囲まれて、はにかむような笑顔を浮かべていた。
毎年、兄の後ろに隠れるように居た煜瑾が、玄紀と共にこれほど積極的に楽しんでいることが煜瓔には嬉しかった。
突然、両親を事故で失った煜瓔にとって、大切な家族は可愛い弟の煜瑾だけになってしまった。そんな唯一の家族である、大事な煜瑾には、辛いこと、悲しい事、苦しいことなど知らぬ人生を送らせたいと願う煜瓔だ。
いつでも、誰をも魅了する、無垢で、優雅な笑顔を浮かべて、幸せそうであってくれたらそれで煜瓔は満足だった。
「あの…お2人と一緒にお写真を撮ってもいいですか?」
「あ、煜瑾はちょっと…」
知らない相手との写真を嫌がる煜瑾を知っている玄紀が、断ろうとした時だった。
「構いませんよ」
驚いたことに煜瑾が了承した。
「いいの?」
「ここに居るのは、お兄さまの会社の社員だけだから、いいのです」
屈託なく答える煜瑾に、困惑しながらも玄紀も許可した。
これをきっかけに、あちこちで、玄紀と煜瑾は写真撮影を申し込まれる。会場の隅には煜瑾と玄紀の撮影会のような人だかりができていた。
目立つ服装に、多くの社員の目があることで、唐煜瓔はいつまでも自分が煜瑾を見守っている必要はないと判断し、少し気を緩め、社内の幹部らと飲食を楽しむことが出来た。
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