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第166話

 小敏(しょうびん)の案内で、煜瑾(いくきん)玄紀(げんき)文維(ぶんい)が待つ部屋に向かった。 「事情は分かったけど、本当にシンデレラになるかどうかは、煜瑾が文維と相談して決めたらいいよ」  エレベータの中で、粗方(あらかた)の事情を説明すると、小敏はそう言った。 「じゃあ、ボクらは行くね」  部屋の前まで来ると、小敏はカードキーを渡し、ニッコリと煜瑾を励ますような笑顔を浮かべた。 「え?どこへ行くのですか?」  煜瑾がキョトンとして小敏を見つめ返す。 「だって、話があるのは煜瑾と文維でしょ?ボクと玄紀は遠慮するよ」 「そうなんですか?」  てっきり自分も参加できると思っていた玄紀は、ガッカリした顔になった。 「その分、ボクがお相手するから、玄紀も文句を言わないの!」 「え?お、お相手?」  何かを期待したようにニヤニヤする玄紀を引きずるようにして、小敏は煜瑾に手を振ってエレベータの方へ戻って行った。  残された煜瑾は、カードキーを使う前に、息を整えて、ノックをした。 「はい」  室内から声がした。 「!」  それが誰のものかは、考えずとも分かる。  早く会いたいと気持ちが逸る煜瑾が、カードキーを差し込もうとした瞬間、ドアが開いた。  目の前に現れた姿が、煜瑾には涙に滲んで歪んで見える。それでも、それが誰であるのかは、ハッキリと分かっていた。 (文維…)  声を出そうとして、胸がドキドキして声が出ない。 (あっ!)  そんな煜瑾の腕を掴み、文維は室内に引き入れ、乱暴にドアを閉めると、何も言わずに、煜瑾を強く抱きしめた。  煜瑾も、これが幻でないことを祈りながら、おずおずと文維の背に腕を回した。  ギュッと抱き合ったまま、2人はしばらく黙っていた。  不思議なことに、何も言わずとも、何もかも分かったような気がした。  文維は煜瑾を騙してはいないこと。煜瑾は、まだ文維を求めていること。2人が互いに愛し合い、必要としていること…。 「煜瑾…」  ようやく、押し殺したように文維が囁いた。その声が、甘く、濃艶で、煜瑾には刺激が強すぎる。  全身を紅くさせ、息が上がり、震える、初心(うぶ)で過敏な煜瑾が、文維を誘惑する。  堪らずに、2人はどちらからということも無く、唇を重ねていた。そっと触れただけだったのに、そこから火が点いたように、互いに激しく求め合った。

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