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第167話
抱き合ったまま、深く貪るような口づけを交わし、2人は部屋の奥へと移動する。
ホテルの客室である以上、そこにはベッドがあった。
「あ…っ」
そのまま縺 れるようにして、文維 は煜瑾 を抱いたままベッドに倒れ込んだ。
けれど、煜瑾の体にいつかのような怯えを示すような反応は無く、2人は抱き合い、触れ合い、いつまでも口づけを繰り返した。
(このまま…、文維の物になってもいい…)
煜瑾は、ハッキリと自分と文維の欲望を感じていた。この欲望の本能のまま、流されてしまっても構わないと、心を決めた煜瑾は、ギュッと文維の服を掴んだ。
***
「ねえ、玄紀 。今、何時?」
エレベータを降りて、花園飯店 の1階で、小敏 は玄紀に訊いた。
「今ですか?9時過ぎですけど…」
「ん~、宝山 の唐 家まで1時間として、あと2時間か…」
「何が、ですか?」
意味が分からずにいる玄紀を余所に、小敏は1人で考え込んでいた。
「イケるか?いや…文維なら、ヤれるな。その辺の経験値に問題は無いし。問題は、煜瑾が初めてだから…、ん~っと」
「な、何をブツブツ言っているのですか、小敏?」
顔を覗き込まれ、小敏はふと気付いた。
「玄紀、なんでまだここにいるのさ?」
「ど、どういう意味ですか!」
急に冷たくなった小敏が、玄紀には辛い。
「だって、今夜、大連に帰るんでしょう?」
「違いますよ!煜瑾が抜け出すために、そういうことにしただけです」
「でも、その荷物…」
そう言って小敏は玄紀の引くキャリーケースを指さした。
「この中には、今は煜瑾のスーツしか入っていませんよ」
「え?煜瑾の、なの?じゃあ返して来ようか~」
ちょっと意地の悪い顔をして小敏は言うが、すぐに優しく微笑んだ。
「ま、シンデレラの邪魔はしたくないし、玄紀も空港に行かないなら、2人で何か食べに行こうか?」
「はい!」
小敏と2人だけで居られるなら、玄紀はそれだけで十分だった。
いつか、文維と煜瑾のような、お互いのことを想うだけで泣けるような関係になりたいとは思うけれど、今の小敏にそれを求めるのは無理だと分かっている。
気持ちの伴わない、形だけの関係よりも、今はまだ、ただの弟のような友達という関係でもいいと玄紀は思っていた。
「あ、私の車、唐家に預けたままです」
「車が無いなら、お酒も飲めるからいいじゃないか。…ただ、この荷物は邪魔だなあ」
「小敏には持たせませんから、大丈夫です!」
必死な形相になる、正直な玄紀に小敏も表情を緩める。
「じゃあ、荷物が邪魔だから、玄紀んちに行こうか」
「え…?」
サラリと言う小敏に、玄紀はどう理解していいのか分からなくて、困惑した顔でじっと小敏を見詰めた。
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