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第187話

「あ…、あっ…」  途切れ途切れに息をしながら、煜瑾(いくきん)は必死に目を閉じ、唇を噛んで、文維(ぶんい)の為すがままに任せていた。  文維もまた荒い息で、大きく開かせた煜瑾の脚の間に身を置き、ジェルをたっぷりと使って、初めての感覚に見悶える恋人の前を慰め、後ろを緩め、1つになろうと準備を進めていた。  忘我の中で艶美に震える煜瑾を堪能しながら、文維は枕の下に用意しておいたゴムを取り出した。 「…あぁ…っ」  想像以上の熱と圧迫感に、煜瑾は激しく動揺して、声を上げ、全身をわななかせた。 「あ、ダメ…、文維…ソコ…」  自分の体のことであるのに、初めての感覚を刺激され、煜瑾は震え、泣き出してしまう。 「ダメです…、こんな感じ…。こんなの…知らない…から…」  文維は何も言わなかったが、煜瑾の中で、言い知れない感動を覚えていた。  これまで、さまざまなタイプの男女と関係を持って来た文維だ。遊び慣れたカラダ、初心でデリケートなカラダ、どれも十分に文維は楽しみ、楽しませた。  だが、今夜の唐煜瑾との行為は、これまでの経験とは全く別物だと思えた。 「あ…ぅ、ん…。ぶ、文維、…文維…。こ、怖い…、こんな感じ…怖いで、す…」  生れて初めての官能に、煜瑾は畏怖している。 「ぁ…あ、…あ、ん」  涙ぐみながらも、文維の存在感に悦びを抑えられない煜瑾が愛しくて、文維は、それまでのリミッターを外し、激しく恋人を求めた。 「煜瑾!」 「文維…、文維…」  悩ましく、艶めかしく、そして貪欲に欲しがる煜瑾に、文維は期待に応えようとする。肉体だけでなく、精神的にもここまで深く交わり、満たされることを2人は初めて知った。  文維と煜瑾は、ようやく結ばれ、1つになったことで、もう離れては生きていけないと確信することができ、2人で生きていくことに幸せしか見いだせなかった。 ***  ぐったりとした煜瑾を胸に抱き、文維は満足げにその美貌を眺めていた。  息が整うのを待っていた煜瑾が、やっと黒々とした長い睫毛を持ち上げて、ホッと息を吐いた。 「先ほどは、申し訳ありませんでした」  それに気付いて、文維が煜瑾の前髪に触れながら声を掛けた。 「先ほど?」 「イヤとは言うなと、君に命令するように言ってしまって…」  繊細な煜瑾に、強い口調は避けるべきだと分かっていたはずの文維だったが、珍しく自分の感情が優先してしまい、余裕を失くしていたのだ。 「あ、あれは…。本当はイヤではないのに、そんな声が出てしまうのです。だから…」  煜瑾は、真っ赤になりながら文維に甘えるようにすり寄った。 「これからは気を付けますから、もっと文維が思うようにして下さいね。どうすればいいのか、少しずつ教えて欲しいです」 「……煜瑾…」  初心(うぶ)晩熟(おくて)とは言え、これほどに無邪気なことを言われては、文維も返す言葉が無かった。

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