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第191話
「羽小敏 !」
いきなり玄関に現れた親友を、煜瑾 は驚きながらも、嬉しそうに出迎えた。
「煜瑾!独立おめでとう!」
小敏はそう言って、いつかのお泊り会で煜瑾が飲み干してしまった、日本の梅酒の瓶をプレゼントした。
「これ、煜瑾が、気に入ってたと思って」
「ありがとうございます。このお酒、とても美味しかったですよね」
煜瑾はとても素直に喜んで受け取り、そのまま小敏の手を取った。
「今日のランチは私が作ったのです。ね、だから一緒に食べて下さい」
「いいの?」
聞き返す小敏を受けて、煜瑾は許可を求めるように文維 を見た。もちろん、文維は可愛い恋人の希望を尊重して、優しく頷く。
「ボクの分もあるの?煜瑾のを貰っちゃ悪いよ」
「大丈夫です。それに、とっても美味しいアップルパイもあるのですよ」
「え!じゃあ、お言葉に甘えて…」
文維が見守る中、煜瑾と小敏は手を取り合ってキッチンへと向かった。
「これ、煜瑾が全部1人で?」
「いえ…、うちの家政婦に手伝ってもらいましたが…」
恥ずかしそうに言う煜瑾の前には、ミートソーススパゲティ、ポテトサラダ、野菜スープ、アップルパイが並んでいる。
「すぐに温めますね」
「ボクも手伝うよ」
肩を寄せ合う2人の後ろで、文維も声を掛ける。
「では、サラダをダイニングに運ぶのは、私に任せて下さい」
そう言って、文維はサラダと取り皿を手にしてキッチンを出た。
それを見送って、ニヤリとした小敏は、さらに煜瑾ににじり寄った。
「で?」
「ん?」
好奇心に満ちてキラキラしている瞳の小敏の問いが分からず、煜瑾は可愛らしく小首を傾げる。
「いや、だから…。ゆうべは、どうだった?」
「どうって?」
ますます困惑したように、煜瑾は小敏の目をジッと見た。その純真な眼差しに、さすがに小敏も諦める。
「もういいや…。それより、せっかくのランチ、早くいただこう」
煜瑾が温めたパスタにソースを掛けて小敏に渡す。両手をスパゲティの皿で塞がれた小敏に、煜瑾が言った。
「もう一皿は、私が持って行きます。昨夜の文維はとても素敵でした」
まるで何でもない事のようにサラリと言って、煜瑾は、今度はスープを温め始める。
「え?は?い、煜瑾?今、何て?」
煜瑾の発言に、スルーしかけた小敏だったが、自分の耳を疑った。
「うふふ」
けれど、見返した煜瑾は、相変わらず天使のような気高く無垢な美しい笑顔を浮かべていた。
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