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第196話
その人柄や、自宅とは言えモデルルームのようなコーディネートのセンスに、惚れこんだ百瀬 に迎えられ、煜瑾 はまずコーディネーターとしてではなく、アドバイザーとして参加することになった。
コーディネーターとして采配を振るうには、煜瑾はまだ各種の業者とのコネもないため、取り敢えず百瀬の助手的な立場で手伝うことになったのだ。
まず煜瑾がショップの各コーナーのイメージデッサンを作り、それに合うような什器やインテリア類を百瀬と煜瑾が協力して各業者のカタログやサイトで探し、見積もりを作成した。
それを出店メーカーやモール担当者に提出すると、なんと1発でOKが出たのだ。
中でも、見本用の筆記具を1か所に集めた試し書きコーナーは評判が良く、その日本式とも中国式とも取れる書院風のデザインの、小部屋のようにしたスペースはとても美しく設えられていて、開店後は撮影スポットとしても人気が出そうだ。
他にも日本の可愛らしいキャラクターグッズコーナーは子供たちが楽しめるよう、日本式に靴を脱いでカーペットの上で寛げるようになっていて、富裕な大人向きの最高級万年筆を注文するコーナーはまるで銀行か証券会社の応接室のような重厚なムードになっている。
それぞれのニーズに合わせた雰囲気づくりが、それほど高価では無いものの、選りすぐられた品の良いもので構成されていて、それが煜瑾の「仕事」として高く評価された。
「本当に小敏に煜瑾を紹介してもらって良かった~。本当はね『唐家の王子』様だから、とんでもない予算で考えるんじゃないかと心配してたの」
同僚となった百瀬に言われて、煜瑾はちょっと困ったように笑った。
「ボクも、名門のお坊ちゃまって聞いて、気難しい人かな~って、ちょっと不安でした」
百瀬とコンビを組んでいる年下の石一海 にも言われ、ますます煜瑾は困ってしまう。
「私…、そんなに一緒に仕事をしにくそうですか?」
「そんなこと、無い、無い!」「違いますよ!」
慌てて百瀬&一海コンビは、煜瑾の困惑を否定する。もう2人は、すっかり煜瑾の美貌や、性格の良さや、高貴さなどに魅了されているのだ。
「同じ安い価格帯のものでも、煜瑾は高そうに見える物や、より上品な物を見極めてくれるから、本当に助かったわ~。本物の審美眼があるってこういうことだって思った」
「唐さんは、本当に優しくて、穏やかで、気品があって、一緒に仕事をしていて幸せな気持ちになりますよ」
急に褒めはじめた百瀬と一海に、キョトンとした煜瑾だったが、2人の好意が嬉しくて、誰をも魅了する優雅な笑みを浮かべた。
「ありがとうございます。これからも、よろしくお願いします」
輝くような美しい唐煜瑾の笑顔に、さらに百瀬と石一海は心を奪われ、ますますファンになった。
それから1カ月、煜瑾は打ち合わせや施工、搬入など「やり方を覚える」ためとして、忙しくモールに通い詰めた。
そして、漠然と「3月開店」と公表されていた店舗のオープン日が、正式にひと月先の3月15日と決まった。
それは、偶然にも煜瑾の誕生日だった。
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