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41 再会編 美貌1

 ヴィオの働くティーサロンもとても立派で美しい、格調高い空間だと思っていたけれど、この場所も負けじ劣らない。  敷かれている鮮やかなブルーの絨毯がふかふか足が沈みそうだし、天井も高くてすごく広々と感じる。  セラフィンが住まう世界はこうしたどこもかしこも整えられて清潔で真っ白な空間なのだろうなあとヴィオは思った。  5年前にたまたまセラフィンがヴィオの住む里に来たのは調べ物があったからで、二人があの場所で出会えたのはさらに偶然が重なった結果。そうでなければ自分たちが出会うことなどなかったのだろう。  そしてヴィオがセラフィンから自立したら、のちの二人の接点はなくなっていくのだろう。ヴィオはそう思うと高揚感の中に胸がちくんと痛むような切なさを感じる。 (でも今は、めったにできないこの経験を楽しまないと)  気分を変える様に、自分の前に立っていたマダムに声をかけた。 「先生は、いつもこちらでお洋服を買っていらっしゃるんですか?」 「そうねえ。小さなころから私がセラフィン様とご家族のお洋服を数多く担当させていただきましたわ。セラフィン様をご覧になったらお客様にもよくおわかりでしょう? それはもう皆さん美しいご一家でらっしゃいますから腕によりをかけてデザインしていましたわよ。お兄様のバルク様なんて子どもの頃はあまりにも可愛らしくて女神の御使いもかくやって絶賛されてましたから、ここの写真館ができた時に是非にと社長が拝みにいって写真を撮らせてもらったんですよ。多分まだ下の階の写真にその写真がみられますよ」  サロンのオーナーであると名乗ったマダムはその後もセラウィンの容姿を饒舌に褒めつつ、ヴィオの知らないセラフィンの家族の話を教えてくれた。  そもそもセラフィンは生まれてこの方、既成の服を着たことがないまま育った生粋の貴族のお坊ちゃまで、成長し留学するまでは双子の兄と揃いの服をこちらで作ってきていたそうだ。双子のお兄様の話がものすごく気になったけれど、今は遠い街で暮らしているという情報を得るのにとどまった。 (セラフィン先生の双子のお兄様ってどんな方だろう? そっくりなのかなあ。あんなに綺麗な人がこの世に二人もいるなんて信じられないよ)  マダムはセラフィンの生家であるモルス家お抱えの、セラフィンの母の友人なのだそうだ。  恰幅の良い大柄な女性で、鮮やかなマラカイトグリーンのスーツ姿が迫力満点。耳についた水色の宝石がキラキラと眩しすぎる。  別室で待っているセラフィンとはなれてヴィオは一人、彼女の前でぱりっとした服装の青年たちに寄ってたかって採寸されてしまう。里で普段から着続けてきたみすぼらしいとしか言えない服装でここまで来たからヴィオは非常に恐縮してさらに縮こまった。  その上、ぽいっときていたシャツをはぎとられて、ヴィオは『ひゃあ』っと声を上げて身震いした。 「これ。シャキッとしなさい。男の子でしょう。ああでもまあなんてスタイルが良いんでしょう! この均整の取れた美しい身体を見て! 筋肉も綺麗について絞れていて、でもカチカチじゃなくって弾力もあって。髪の毛は手入もせずに伸ばしっぱなしでしょ? 貴方、隣のサロンに声かけてきて。毛先だけでもきれいにしないとね。ああ、あなた、そのシャツのワンサイズ下のものを隣にいって何枚か持ってきて頂戴。寒色系中心にしてね。まあ、とっても脚が長いわね。こんなつんつるてんのズボンをよくもまあずっとはいていたこと」  テキパキ部下に指示を出すマダムはところどころ鋭い突っ込みを入れてくる。  膝の擦り切れ具合の位置のずれに、長らくこのズボンをはいていたと気が付かれてヴィオは恥ずかしさでいっぱいになった。  ヴィオのそんな様子にすぐに気が付いたマダムは暖かく微笑んで、宝石だらけの手でヴィオの肩をそっと握った。 「そんな顔しないの。貴方は若くて美しいんだから胸を張りなさい」 「でもこんなにすごいお店で……。僕が着られるような服はありません」  周りを見渡すと綺羅綺羅しい空間で目が眩みそうだ。自分だけが浮いていて、もしかしたら先程もセラフィンの隣にいた自分はあまりにも釣り合っていなかったのではと悲しくなってきた。  そんなヴィオの憂いを見抜いたようにマダムはまた激を飛びす。 「何を言ってるの。セラフィン様の隣に立ってるんならそれなりに見られる恰好をしないと駄目じゃない。貴方あの方が誰だかわかっているの?」 (セラフィン先生はお医者さん。他になにかあるの?)  勿論わからない。セラフィンは中央のお医者様でヴィオを助けてくれた優しいお兄さん。逆にそれ以外わからないことに、いささか自分でも驚いた。

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