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番外編 青年期 ポスターの肖像 8

「はあ? へっ」  急所の根元をわしっと掴まれて変な声が上がってしまった。セラフィンは暗がりでも映えるほど白く怜悧な顔つきで、診察室にいるのと変わらない冷静な声を出しながらジルの膨れ上がってきた陰茎の根元をしげしげとみてくる。 「ほら、亀頭球あるだろ? お前父親がいなかったから聞く相手いなかったんじゃないか? これは誰にでもあるわけじゃない。アルファ特有だ。それにしても俺相手に膨らませて難儀な奴だな。あとさ」  ここまで高まっているところに、セラフィンが妖艶な表情でぺろりっと艶めかしく長い舌で唇を撫ぜる仕草に、さらに硬度を増してしまって泣きたくなる。 「口ん中、舐めた時、犬歯結構尖ってたな。アルファだと思うけどなあ? 極めつけはこのオメガの香水にこんなに反応して。異常に執着しているし、お前やっぱりアルファだろ?」 「先生、あんたまさか、それ確かめるためにこんなエロいことしでかしたんですか?」 「お前が素直に自分がアルファって認めないからだろ?」  何でもないことの様にあっさりした顔をしてぴんっと揶揄うようにジルのテラテラと光る怒張の先をはじいてきたから、ジルはあまりのことに震えながら寝台の上に崩れ落ちそうになるのを何とかとどまっった。 「性悪すぎる!!!」 「昔から目的のためなら手段は選ばない性格なんだ。だいたいお前色々強引すぎるだろ?俺は連勤続きで死ぬほど疲れていたんだよ。それを全力でしつこくしやがって」  しかしやられたままで大人しく終われるほどジルに心の余裕があったわけではない。目ざとくセラフィンのバスローブの膨らみに気が付いて、自分の先走りを手に取ると、にちりっとセラフィンのそれを右手で摺り上げた。 「おい! 触るな」  ぎょっとした声を出し、流石に暴れたセラフィンだが、格闘技経験のあるジルがマウントを完全にとって巧みに体重を移動させたのですぐには抜け出すことができない。しかも急所を結構強めに握られ、男として流石に冷や汗と恐怖心が浮かぶ。そのまま大きく手を摺りあげ、いじられて身体の力が思うように動けない。帰国後仕事が忙しくて自慰さえおざなりになっていたのが完全に裏目に出た。 「先生だって勃ってるでしょ。策に溺れてる。もっと溺れて」  口をついて出る甚振るような雄味のある声色は、もはや自分のものとは思えぬほどだった。あおりに煽られて顔が真っ赤になっているのではないかと思うほどかっかと熱くなる。 「こんなの疲れマラだ! 」 「じゃあ俺だってその疲れなんとかですよ。連勤続きでやっと休みで…… その顔でエロいキスされたら、こんなのもう不可抗力じゃないですか」  大きな右手でセラフィンのものと自分のものを同時に摺り上げながら、左手で香水を手に取ると口に蓋を食み、きゅぽっと音を立てる。  それをセラフィンの胸元に振りかけながら、ジルは馬乗りになってイヤラシく腰を動かして追い上げていく。 香りが呼び水になったかのように、セラフィンの身体が心を裏切り先に快楽を追い始めた。 「んっ」  押し殺し呻く声、セラフィンが腕で顔を隠すのを無理やり暴いて覗き込むと、睨みつけてくる瞳と目が合った。その目つきにすらジルは興奮して息を弾ませた。  左腕を背中に入れて抱き起すと、隣に置いてあった姿見にわざわざ顔を向けさせた。 「色っぽい貌。押し殺しても感じてる声。たまんないですね。ほら見てくださいよ。いい貌してますよ。あのポスターの麗人みたいだ。いや、それよりずっと……」  鏡の中には完全に野獣と化したジルが、金色の髪を振り乱し、目を爛ランと見開きつつもどこか陶然とした表情で鏡越しにセラフィンを見つめていた。  寝所を満たし立ち込める青い小瓶の芳香に互いの体臭が混じって嫌に生々しい。  若い雄に容赦なく追い上げれ、艶かしく唇が半ば開かれた。また吸い付くように唇を重ねられたから今度は舌をぎゅっとセラフィンから噛みつかれた。  ジルの中で反発心が沸き起こり、腹いせのように裏筋から亀頭周りをネチネチと刺激する。セラフィンは跳ね上がりそうになる腰をプライドでシーツに縫い付けたいがうまく行かずにゆらりと動かしジルを逆にまた煽ってしまう。  与えられる快楽からどう逃げようかそれとも溺れようか。  そう迷っているような苦し気に眉を寄せた凄艶なセラフィンの姿はセラフィンの中にもある、ある人物の面影を髣髴とさせ、彼は心臓が別の意味でもぎゅうぎゅうと締め付けられるように鼓動が高まっていた。 (ソフィー……)  セラフィンは鏡の中の自分の顔に一瞬魅入られたような表情を浮かべたの、ぎゅっと瞳を瞑った。

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