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番外編 青年期 ポスターの肖像 9
色々な感情が交錯し、セラフィンが身じろぎをやめたことにより、それに気がついたジルの右手からの刺激がしばし止んだ。
表の目抜き通りからは少しだけはなれた閑静な街の中、この青っぽい部屋の中はことさら海の底のように静まり返っている。
ドクンドクンとジルの欲望の熱だけが充溢し、熱く伝わってくるようだった。
セラフィンの固く閉じた瞼に不意に温かく柔らかな物が触れる。ジルが労るように口づけを落としてきたのだ。傍若無人に振る舞ったかと思えばこうして愛しい恋人に触れるように繊細な仕草を見せてくるから、とにかくこの男にどう接してよいのかセラフィンはわからなくなるのだ。瞳を開くと欲に濡れたヘーゼルの瞳と目があった。
「先生、ごめん。もう変なこといわないから。泣かないで。気持ちよくだけなって」
泣いてる、指摘されて初めて目尻に涙が溜まっていたとわかったが、それはおよそ生理的なそれだと弁明する気も起きなかった。
自分の姿に双子の兄弟を透かし見てしまうのは疲れているときなどたまに起こる現象だ。ごく若い頃に離れ離れになった存在だが今でも心の柔く大切な部分を占める思い出に密接に関わっている。日頃はあまり考えまいとしていた。考えるとその時心の中に漣のような小さな揺れが起こる。それは切なく苦しいけれど命を奪われるわけでは当然ない。でも口で言い表せられない類のもやもやがずっと渦巻いている心地になるのだ。寂しさ、とも言い換えればよいのか。
なにもセラフィンが言わないことをいいことに、懲りずにジルは合わせるだけの軽い口づけを落としてから再び粘膜同士をこすり合わせて今度こそ絶頂への階段を駆け上がっていった。
テクニックもなにもない、ただひたすらに擦りあげられるだけなのにいっそ清々しいまでに心地よい。たまに雄っぽいうめき声が聞こえるが、それには流石にそそられないので、セラフィンは大きく熱い手先が器用に生み出す快感にだけ集中した。
もう何も考えたくなって、セラフィンは関係を持った僅かな女性たち以外の手に初めて我が身を任せてしまった。
「うぁっ。先生、イクッ!」
ご丁寧にセラフィンを呼びながらジルは雄々しく果てた。その拍子に起き上がっていたセラフィンは背中から寝台に再び沈み込こむ。
ジルの放埒はやはりアルファなのかラットでなくても嫌に長い。しかし自分がいったあとも天をついたまま果てないセラフィン自身が気になるのか、その手についた吐き出したばかりの精の力を借りてわざわざセラフィンのために手を動かし続けるからセラフィンは億劫げに目を開けた。
「もういいから放っておいてくれ。俺はこのまま寝る。……疲れてると中々いけないし、女性としか最後までしたことないからお前の手で行けるかわからん。そっとしておけばそのうち収まる」
この高まりをそのまま放置。それがどれだけ滑稽でも、もはやこの夜はへんてこりんでおかしなことばかりだ。
今更何を取り繕う気も頑張る気も起きなかった。
「こんなになってて、そういうわけには行かないでしょう。それにほら、俺、またたったし」
新人警察官恐るべし、軍も負けてはいられないほど生きのいいのをいれたな…… と流石に感心するやら呆れるやら。
もうとにかく頭が働かない。
「じゃあ、わかりました」
何がだ? と確認する前に己の剛直を湿った温かな物が包み込み、ぬるんっと口内に包み込まれたことがわかってセラフィンは黒髪を振り乱した。
「お前! そんなことまでするな!」
「うううーう、うん!(大丈夫です!)」
流石に男だけあって吸い付く力と口内も広く、快感を得られるポイントを重点的に責められたらたまらなかった。
口だけでなく、亀頭球から口に入っていない下の方の竿の部分までも同時に手で擦りあげられる。
放った物が滑りを良くして先程よりも更に更になめらかに動く手にもはや成すすべはない。
「あっあ!」
堪らず声上げながら果て、腰を突き上げてしまったのをものともせずに、ジルは嚥下し、顔を離した瞬間、今度は自身の二度目の放埒をまだ大きく息をつくセラフィンのはだけだ艶っぽい腹から胸に解き放った。
量がとにかく多くて、ぴしゃっと飛沫がわずかにセラフィンの上気した美貌の顎先を汚し、ジルはそれに誘惑されたようにふらふらと引き寄せられると舌先で舐めとり、そのまま唇までベロリと舐めて、ベタつきまだ燃えるように熱い身体のまま覆い被さる。
「はあ、先生すげぇ、綺麗だった。気持ちよかった」
幸せそうなジルの声を耳元で聞きながらも、もはやセラフィンは眠りの縁に落ちる寸前になっていた。
「も、これ以上なにかしたら、お前を朝、そこのバルコニーから吊るしてやる」
セラフィンは、やや乱れた吐息のまま、膝でグイグイジルの腹を押しながら、それだけなんとか絞り出すと目を閉じた。
隣にゴロンと豪快に寝転がってきた満足げなジルと、不本意ながらこの夜は同衾することになってしまった。
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