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《定例会》

 《青道会》は初のオメガがトップに立ち、アルファが若頭という前代未聞となる組織となった。《青道会》の歴史といものを壊してしまったが、余計な混乱を招かないよう、雪成らも気を配っていかなければならない。  いま雪成が向かっているのは《市松組》組長、菱本(ひしもと)の本宅だ。月一の寄り合い、謂わば定例会と呼ばれるものがあるからだ。幹部がこぞって集結する物々しい日と言えるが、雪成にとっては楽しみな日でもあった。  だが毎度本宅へ入るまでが煩わしい。周囲には山や田園が広がる穏やかな場所なのだが、この日ばかりはそうはいかない。  マスコミに、マル暴の存在があるせいだ。本宅へと続く広い道には、交通量が少ないこともあるせいか、マスコミ連中が我が物顔でカメラを構えている。そしてマル暴連中は、ヤクザ以上に恐ろしい風貌で睨みを利かせていた。  雪成の車だけではなく、ヤクザの幹部が乗る車は、フロントガラス以外は真っ黒なフルスモークで、中が全く見えない仕様になっている。一応フロントガラスも中が見えにくいものだが。そのためナンバープレートで何処の幹部が来たかを知るようだ。  雪成の乗る車が現れると、一斉にフラッシュが焚かれる。 「オメガ会長が来たぞ!」 「クソ! 中が見えねぇのがな」 「新堂会長! 絶世の美人ぶりをご披露願いますか!」  オメガが会長だと恐怖心が薄れるのか、こうした揶揄めいた言葉が飛び交う。それも雪成を週刊誌に載せたいがために、時々挑発めいた言葉を投げて、雪成の反応を待っていたりするのだ。  今のご時世、ヤクザ雑誌といわれるものは姿を消してしまったが、雪成の容姿が美しいため、ヤクザ界の女王、至宝と称され、写真が載ればそれはそれはバカ売れするようだ。 「チッ、くそマスコミが。好き勝手言いやがって、ぶっ殺すぞ!!」  少し短気な面がある麻野がハンドルを殴り、吠える。白銀のウルフヘアーも逆立つ勢いだ。 「いつもの事だろ。ほっとけ」  雪成はそう言うや、目を閉じて外部の音をシャットダウンした。 「そうですけどぉ……。それでもやっぱり、会長を虚仮(こけ)にするのは許せねぇですよ」 「まぁな、オレも同じ気持ちだが、いちいち相手にしてたら身が持たねぇぞ」  中西が麻野を宥めるように言う。それでも麻野はまだ怒りが収まらないのかブツブツと文句を零している。  話している内容はともかく、信頼している二人の声はとても心地いい。ここから先はもっと神経を使うことになる。大物幹部が集まるのだから、気を抜くことは出来ない。だから少しの癒しをチャージしておきたかった。  マスコミやマル暴が見つめる中、車は高い塀に囲まれた邸宅へと近づいた。圧倒されるほどの大きな門は、中が全く見えない黒の鉄製で、とても重厚感がある。  門扉が厳かな空気の中で、ゆっくりと開いていく。他の幹部がまだ来ていない事に、雪成は安堵しつつ《市松組》の構成員が頭を下げるなか、車は中へと入っていった。

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