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《定例会》2

 贅の限りを尽くした和の邸宅が、存在感をこれでもかと見せつけてくる。しかしまだ敷地内に入っただけの場所で、屋敷内に入るには数奇屋門から中へ入らなければならない。  砂利が敷き詰められているこの広場には、駐車スペースが設けてあり、麻野は屋敷から一番遠い場所へと車を止めた。そして素早く車から降り、雪成のために後部ドアを開けて、深く頭を下げる。 「お疲れ様です。会長」 「あぁ」  雪成は車から降りるや、直ぐに窓を鏡代わりに身だしなみをチェックする。  今日はこの日のために作らせた、三つ揃いのスーツを身に着けている。いつも贔屓にしているテーラーに作らせたものだから、流石に着心地がいい。  黒に近い濃紺に、シャドーストライプが入っており、とてもシックな仕上がりとなっている。雪成を大いに満足させるものだった。  そして雪成が顔を上げる。ローアンバーの髪色に、抜けるような白い肌。匂い立つ色気に、時間が一瞬止まったかのように、息を呑む気配が周囲を包む。 「し、新堂さん! お久しぶりです」  数奇屋門の前で整列していた《市松組》の若中連中が、その空気を何とか壊して、一気に雪成の元へと集まってくる。その数二十人ほど。みな幹部の出迎えのために綺麗に並んでいたのだが、雪成を見るや、嬉しさでたまらず駆け寄ってきたのだ。 「おぉ、お前ら久しぶり。つっても1ヶ月ぶりじゃねぇか」  一番年嵩である青年の頭を、雪成は無遠慮に掻き回した。 「松山は相変わらず元気そうだな」 「はい! 特に今日は新堂さんに会えるのを楽しみにしてたんで」 「そうか」  嬉しそうに顔を綻ばせる青年……松山は、特に雪成に懐くアルファの男だ。  ここに整列している連中は、親爺である菱本が選んでいる。  《市松組》の幹部にオメガがいるというのは、やはり皆が納得しているわけではない。だが雪成は、この大きな組織の中で、幹部だという揺るぎない地位がある。下の者が楯突くことなど許されない地位だ。だから表面上は皆、雪成を立て、従っている。  しかしここにいる面々は、心から雪成を慕っている者たちばかりだ。それは、まだ雪成が幹部へと名を連ねる前までは、彼らとここで暮らしていた事が大きい。当初はもちろんぶつかり合うこともあった。しかし次第に頭角を現す雪成に、彼らも雪成という一人の人間を認めるようになった。バース性で見るのではなく、ちゃんと〝新堂雪成〟を見てくれる面々だ。  相変わらずの親バカぶりを発揮する菱本に、雪成は内心で笑った。ここへ入りたての頃は、オメガである事を理由に、散々な目にあってきた。しかし雪成も雪成で、ムカついたら相手をとことん殴り倒してきた。菱本がそれを心配したのかは不明だが、明らかに雪成への配慮が見られる。 (どデカい組織の親分がすることじゃないよな) 「では、会長行ってらっしゃいませ」  中西と麻野が頭を下げたとき、一台の黒塗りの車が入ってきた。慌てて持ち場へと戻る若中を尻目に、雪成は数奇屋門へゆったりとした足取りで向かう。その後に続々と車が入ってくる。若頭に、舎弟頭や、総本部長、若頭補佐などの錚々たるメンバーが列をなしている。外ではマスコミ連中が大いに湧いているだろう。

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