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《定例会》3

 数奇屋門から玄関へと続くアプローチには、石畳が綺麗に真っ直ぐ敷かれている。そしてその左右には、隅々まで手入れが行き届いた日本庭園が広がっていた。菱本自身が手入れをするくらいにお気に入りの場所だ。  泉地、築山、庭石、季節折々で美しい花々を咲かせる草木も、綺麗に配置された美しい庭園となっている。もう少しすれば桜が一面に広がり、幻想的な光景も眺められるだろう。  雪成は石畳を踏まないよう脇に退け、若頭らが通るのを待った。  ジャリジャリと砂利を踏み鳴らす音が近づいてくる。雪成は姿が現れる前に頭を下げた。 「お疲れ様です」 「おぉ、新堂早いな」  若頭の橋下(はしもと)が、雪成へと陽気に声をかける。橋下の顔は泣く子も黙るほどに、ヤクザらしい顔つきをしている。だが偉ぶるような事はせず、いつも雪成と会えば気さくに声をかけてくるのだ。  雪成を可愛がるというわけではなくて、公平にものを見る人間だ。菱本と並ぶ程の力を持っており、その影響力は計り知れない。雪成が菱本の次に信頼している人間でもあった。  そこへ慌てたように雪成の隣へ並ぶ男がいた。見なくても誰かは雪成には分かり、無言を挨拶で返した。 「相変わらず、雪成は早いな」 「えぇ、下っ端ですからね」  雪成は《市松組》では若頭補佐という地位におり、組織の中ではNo.3という高位にいる。しかし《市松組》には若頭補佐は雪成含め五人いる。その中ではまだ年若の雪成は、末端という位置づけになるのだ。 「殊勝だね~」  茶化すような声音の男に、雪成は頭を下げたまま視線だけを男に遣った。  目が合うと陽気にウインクなどしてくるこの男は雪成と同様、若頭補佐を務める。名は永野高次(ながのこうじ)。そして百四十人もの構成員を抱える《中宮組》の組長だ。  永野とは歳は離れているが、雪成がここ《市松組》に入った時から、よく面倒を見てくれていた。雪成にとっても永野は兄のような存在でもあり、今でも幹部の中で唯一雪成を可愛がってくれている。 「オメガくさい匂いがすると思ったら、新堂か」  そこへ若頭よりも遅くにやってきた若頭補佐の山口が、雪成の全身を舐めるように見る。いやらしい目付きを向けてくるのは毎度のことだ。 「それだけの美貌を持っていても宝の持ち腐れか。もし初ヒートを起こしたらオレが面倒みてやるよ」 「それはどうもです。ですが、俺の体力についていけるのですか?」 「なっ……」  山口は途端に頬を紅潮させ、雪成へと怒鳴りつけようとした時、中から橋下が中へ入るようにと促してきた。山口の眉と目元がまるで痙攣でもしているかのように、ピクついている。 「ケッ、男のケツなんぞ掘れるか。気色悪ぃ」  捨て台詞を吐くことは忘れずに、山口は肩を怒らせながら中へと入っていった。  山口は若頭補佐の中では年嵩の男だ。しかし一番オメガである雪成を毛嫌いしている。  それは別にいい。山口になど好かれたいとは雪成も思っていない。ただ、スキンヘッドに、頬には五センチ程の傷、如何にもな風貌をひけらかせる態度が鼻につくだけだ。 「相も変わらず突っかかるね〜。昔からオメガと見ると虫けら扱いだからなぁ。アルファ至上主義もいいところだ。ま、年寄りになるとグチグチ言いたくなるのかもなぁ。気にすんなよ」  永野は雪成を元気づけようと、背中をあやすように叩く。雪成は永野へと〝大丈夫だ〟と微笑むが、永野が心配するようなことは何もない。これくらいで傷つくような柔なハートではないのだ。

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