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《魂の》

「名は和泉龍成(いずみりゅうせい)。本名かどうかは不明ですが、一応和泉で名を通しているようです。そしてhopeのオーナーという肩書きですが、自身もしっかりバーテンダーとして仕事をしているようですね。後は……もうご存知かと思いますが、和泉はアルファです」  本当に何も情報がない報せを聞いて、雪成は頭を抱えたくなった。 「あの男が一般人だとは思ってないぞ、俺は。何も出てこないってのが余計に胡散臭い」  吐き捨てるように言う雪成に、中西も同意のようで頷いている。  車は緩やかに走り出し、料亭を包む上品な照明が視界から消えていく。それをぼんやりと眺めながら、雪成は和泉の事を考えていた。  何かあるはずだが、今はもう一つの懸念材料を雪成はスッキリとさせたかった。 「今からhopeへ向かってくれ」 「hopeへ……ですか?」 「車からは降りない。通るだけだ」 「しかし……」  中西はルームミラー越しから窺った雪成の様子に「かしこまりました」とhopeに向けて車を走らせた。  車内は静かだ。中西も緊張しているようでずっと黙り込んでいる。普段から麻野のようにぺちゃくちゃと喋るような男ではないが、雪成と二人の時は何かしら会話があるのだが。  雪成は本人以上に緊張している中西に、少し自身の緊張が解けていくのを感じた。  やがてBAR【hope】が近づいてくる。それが顕著に雪成の身体にも表れ始めた。 「……っ……やっぱり……アイツが原因か」 「会長……大丈夫ですか? もしかして昨日のような状態が?」 「あぁ……昨夜もこの辺りくらいで身体が熱っぽかったが、今日は昨日よりも既に身体が熱い」  下腹部が特に熱くて、少しの刺激でも勃起してしまいそうだ。雪成はヘッドレストに頭を預け、呼吸を整えて、精神を落ち着かせようと努める。しかし昨夜和泉の姿を見たことで、どうしても頭の中にその姿がチラついてしまう。 (クソ……この俺がなんでそっち側を考えるんだ) 「会長、和泉が店から出ています」 「え……」  店まであと数十メートルという距離。雪成は和泉の姿を視認した途端、全身が一気に痺れた。 「いず……み」  今すぐここから飛び出して、あの男の匂いを嗅ぎたい、貪られたいという強い欲求が俄に湧き上がる。  和泉も恐らく雪成の気配で外まで出てきたのだろう。向こうからは車内を見ることが出来ないが、横を通り過ぎるとき、和泉の目は熱く燃え滾り、雪成をしっかり見ていた。  今ここで雪成が車から降りたとしたら、直ぐにでも飛びついてきそうな程の目力だ。 (耐えろ……耐えろ……)  まだ理性が働く。自分を抑えられる力もある。だけど雪成の中で、これは紛れもない発情なのだと認識せざるを得なくなった。  認めたくないし、たくさんの疑問がまだあるが、和泉が欲しいという欲求は明らかに情欲の証だからだ。会ったこともない男だったはずなのに、和泉にだけこのように感じ、しかも和泉も同様で雪成の発情に当てられたような状態だ。これを何だと思ったところで、本能の部分がオメガとして、和泉を受け入れたいと感じてしまっているのだ。発情していると認めるしかなかった。

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