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《魂の》2
「あー……抜きてぇ……」
雪成は残る理性で耐えながらも、後孔が濡れてくる感触に脅える。二十九年、発情を経験した事がない雪成にとって、自分がオメガなんだと思い知らされる瞬間だ。後ろの孔が本当に濡れるのだと人体の不思議ならぬ、オメガの不思議を実感した。
「中西、その路地裏で抜いてくるからその辺で止めてくれ」
「は!? まさか外でなさるおつもりですか? 冗談じゃありません。ここでなさってください」
中西の素っ頓狂な声が上がる。それ程に雪成のセリフに度肝を抜かれたようだ。
「ここで? 人前でオナニーショーする趣味はねぇんだけどな……」
そう言いつつ、雪成はベルトを外し、スラックスのファスナーを下ろす。半勃ちになっているが、それは少しずつ熱が引いていってることが大きかった。
「ちょっとお待ちください! 私はもちろん外に出ておりますから」
中西が慌てて車から降りようとした時、雪成のスマートフォンが着信を知らせてきた。画面には谷原の名前が表示されている。
電話に出ながら雪成は、ファスナーを上げてベルトも締め直した。どうやら有力な情報があるようだと知ると、雪成は一旦マンションへ帰ることにした。
「くれぐれもお気をつけて」
中西は運転席から心配げに顔を出して言う。本当はついて行きたいと思っているだろう。でも個人病院にヤクザが一人でも迷惑な話なのに、二人も行くのは迷惑な話では済まない。それは中西もきちんと理解しているのだ。
「あぁ分かってる。今日もお疲れさん」
「はい」
中西が後ろ髪を引かれるように走り去る中、雪成は逸る気持ちで自家用車に乗り込み、谷原邸へと向かった。
「急なのにすまなかったな」
谷原に促され、いつもの客室へと雪成は通される。
「いや、連絡くれてどうもな」
雪成が定位置であるソファに座ると、谷原は用意していたらしい書類をテーブルの上に置いた。
「あの後色々調べていたら、それらしい物を見つけてね。ちょっと目を通して見てくれ」
雪成は頷いてから、A4サイズの用紙三枚に目を通した。
暫く無言の時間が出来るなか、雪成は夢中で読む。時計の針が、時を刻む音も耳に入らないほどに。
「魂の……番」
ようやく読み終えた雪成の第一声はそれだった。谷原はずっと立っていたようで、緊張が解けたように対面のソファへと腰を下ろした。
「それがお前さんらの症状に一番近い。そうは言ってもまだ一度だけの症状では信憑性に欠けるかもしれないがな」
「いや……それが、さっき確かめに行ったんだ。そしたらやっぱりあの男にだけ俺は反応するようだ。向こうの事は接触してないから、俺だけなのかは分からない」
こんな事があるのかと信じられないが、谷原が調べてくれた内容が無視出来ないものだった。
それはアメリカでたった一例しかないものだという。アルファのローガンと、オメガのノアという男性カップルの話だ。そしてオメガであるノアと雪成の症状が酷似していた。
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