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《魂の》3

 ノアもローガンと出会う前は一度も発情をした事がなく、出来損ないオメガとして三十年間過ごしてきたようだ。  そしてある日、ノアは普段訪れないニューヨークの街を友人二人と歩いていた時に、身体に熱っぽさを感じるようになった。ちょうど同じ時分、勤務先であるカフェで、ローガンも熱っぽさを感じていた。その距離約百メートル程だったと記してある。  雪成も初日は恐らくそれ程の距離だったかと、赤坂の街を思い浮かべていた。  ノアとローガンはお互いに引き寄せられるように出会い、そしてお互いに発情し合った。しかしこの二人の発情は、普通のオメガやアルファとは違い、理性が働くことだった。我を忘れる事がなかったようだ。そして雪成の状況と同様に、ノアの発情には他のアルファやベータには何の影響も無かったという。ノアとローガンの間だけで、発情し合い、お互いだけが求め合った。  そして雪成が一番興味を惹かれたのが、アルファのローガンもノアと出会うまで、発情(ラット)を一度も起こしたことが無いということだった。近くでオメガがヒートを起こそうが、全く反応しなかったようだ。  和泉もそうなのだろうかと、あの男前アルファを思い出す。正直、和泉は雪成にとって、どストライクの男だ。体格も良く、申し分がない。そんな男を組み敷くことが雪成にとって楽しみな事の一つなのだが……。  雪成は今は考えるなと、頭の中から和泉を追い払った。 「それで、このローガンとノアの発情し合ってる時間が、だいたい五、六分なのか……。それも同じと言えなくもないが、まだ俺らは二回しか会ってないからな。ちゃんとしたデータとは言えないよな」 「いや、そうでもないかもな。今日もそうだったなら、恐らくローガンカップルと同一と言えなくもない。そもそもオメガのヒートが五、六分で引くことはない。初ヒートが不安定と言っても、ずっと言ってきたように大体一週間程度はある。しかもそれを読んでの通り、ノアはローガンと会わない限りはヒートを起こさなかったんだ」  雪成は谷原の言葉に頷きながら、少しの希望が見えた。  そう雪成らが魂の番ならまだ希望はあるのだ。あの男が近づきさえしなければヒートはしないということ。ならば二度と近づかなければいい話だ。 「これもたった一例しかないから、鵜呑みにするのは危険かもしれんが、彼らの場合はお互いの気持ちが恋だと、愛してると感じた時に、初めてお互いに強い発情が起こったと記録にはある。ノアのヒートは、想いが通じ合ってからはしっかり一週間はあったようだな。それまでは会えば発情はしていたが、理性は働いていたし、数分で終わっている。雪成もどうなるのかだな」  〝魂の番〟と呼ばれるものは〝運命の番〟とは似て非なるものだった。運命の番でも都市伝説と言われるほどに出会うことが難しいとされている。  それがアメリカでたった一例しかない記録を、信じてしまうのは、谷原が言うようにかなり危険かもしれない。彼らは本当に特別だっただけかもしれないからだ。  しかし想いが通じ合った後も、ローガンとノアはお互いにしか発情し合わなかった。  初めから、そう生まれた時から、番となっている状態の二人。だからこれを〝魂の番〟と呼ぶようにしたと記してある。

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