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《魂の》7

 受け入れたくないと思っていても、オメガの(さが)が受け入れる準備をしている。自分がオメガなんだと嫌でも思い出させられる瞬間だった。 「ちょ……もう……イきそうだっつうの」 「イケよ」  耳元で甘い低音を響かせて、和泉は雪成を挑発してくる。和泉という男は決して雪成に主導権を握らせない。アルファとしてなのか、男としてなのか、それは分からないが、真の攻め気質を見せてくる。  雪成も和泉の前では無意識に素直になってしまっていた。 「い……く……っ」  一気に擦り上げられた瞬間に、二人の精液が放たれる。雪成の思考が一瞬飛んでしまうほどに、最高の絶頂感を得ることが出来た。  お互いの荒い息が整う頃、身体から熱が引いている事に気付く。 「熱が引いたな。お前の匂いもしなくなった」  和泉は車内にあるティッシュ箱から遠慮なく数枚抜いて、お互いのモノを拭く。和泉のセリフで、やはりお互いが発情し合っている時間は同じという事が分かった。  雪成は身なりを整えると、車から降りて運転席に回ると窓を全部開けた。和泉も車から降りると、高い腰を車体に預けるようにして立つ。その姿は現役モデルでも勝てないほどに様になっている。ただ気だるげに立っているだけなのにだ。 「なぁ、アンタは何でここに来た?」  雪成は和泉の真正面に立つと、睨むように背の高い男を見上げた。 「お前に会いにだ。訊きたい事もあったからな」 「俺にね……」  ここへ来たということは、雪成の正体を知っているという事だ。何度か雑誌に載った事がある雪成だが、ヤクザの誌面などコアな読者しか読まない。そもそもこの男が雑誌を読んでいるようには見えなかった。  雪成の中で益々この男に対しての不審感を抱いた。 「まぁ、俺もアンタに訊きたい事があったからちょうどいい。ここは〝一般人〟は誰も入ってこない地下駐車場だから、気兼ねする必要はねぇよ」  雪成がそう言うと、男は視線だけ駐車場内に走らせていった。  この青道会の事務所が入っている雑居ビルは、青道会の持ちビルだ。よって地下駐車場は組員しか利用していない。今日はこの車一台しかないため、誰かに邪魔をされることはないだろう。 「なら訊くが、お前は一体何なんだ」  「何なんだって、知ってるから来たんだろ? ここは青道会、ヤクザの事務所が入るビルだ。そして俺はそこの会長だ」  軽いジョークのような口振りで言った雪成だったが、和泉にはお気に召さなかったようだ。切れ長の目を更に鋭くさせ、軽く睨んできた。  雪成はその視線を受けながら〝はいはい、すみませんね〟と、口の端をゆっくりと上げた。 「そのセリフからすると、アンタももしかして今までラットを起こしたことがないんじゃねぇか? それで俺の存在に戸惑ってるんだろ?」  和泉は少し驚いたように瞠目する。 「……そうだ。俺は生まれてこの方、ラットを起こしたことがない。どんなに近くでオメガがヒートしてようが、反応などした事がない。それなのに、お前だけには反応するようになってしまっている。思いっきりぶち犯してやりたい、孕ませてやりたいっていう本能に突き動かされるが、まだ自制心は働くようだがな」  クールな顔で少し乱暴な表現が混ざることに、雪成はゾクゾクした。M気質など雪成には更々無いが、この男が言うと何故か甘美な言葉に聞こえた。

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