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《kingdom》6

 雪成は一旦、疋田の運転する車で事務所へと戻り、夜にはもう一度kingdomへ顔を出した。  警察は通報者がいなくなっている事に、〝誰か〟が拉致したのではとしつこく尋問したようだ。その〝誰か〟とは、雪成の事を言いたかったのだろう。表向きは宮城の店になるため、名前こそは出してはこなかったようだが。  もちろんキャスト全員が否定し、通報者のことも落ち着いてから自ら帰ったと言い、自分たちで解決したと訴えたようだ。  警察は全く信じた様子を見せなかったが、途中で突然切り上げるように一斉に帰って行ったという。  皆に騒ぎや迷惑を掛けたことを雪成は改めて真摯に詫びて、今後このような事が起きないためのミーティングをしてキャストは帰らせた。  雪成は一人残り、スタッフルームで事務仕事を片付けていく。その時、鞄からムームーと低くこもった音が聞こえた。  キャスター付きの椅子を転がして、雪成は後ろのテーブルに置いていた鞄から、黒いスマートフォンを取り出す。画面に表示されている名前を見て、雪成は少し右眉を上げた。 「河東か」 『この間ぶり。まぁ、挨拶はこの辺にして、今日kingdomでひと騒ぎがあったようだな』 「らしいな」  他人事のように雪成が言うのは、河東の前でも自分の店だとは言ったことがないからだ。河東も雪成の店とは直接的な言い方はしない。  そのなか、雪成の心中は相変わらず河東の情報が早いことに笑っていた。  河東には、所轄やらあらゆる方面から直ぐに情報を提供してくれる者がいるという。どんな小さな事件でも河東の耳に入るようになっているようだ。 『お前の名前が上がって、マル暴連中はやけにテンション高かったそうだぞ。モテるな』 「やめろ。ヤクザの顔を毎日見飽きるほど見てるのに、奴らのヤクザ顔はマジでうんざりなんだわ」  嫌そうに言う雪成に、河東は愉しそうに笑う。 『ま、それは阻止してやったから、見なくて済むから安心しろ。客が無事ならオレからは言うことは何もないからな』 「客は無事だそうだ。心配しなくていい」 『そうか、なら安心したよ』  ヤクザの言うことを信用する警視正もどうかと思うが、雪成はこうして度々河東から助けられている。ただのセフレではあるが、河東は雪成をヤクザとしてではなく、一人の人間として見てくれている事が大きい。深く付き合うには危険な間柄だが、雪成も河東を信頼している面があることは事実だった。  今回の事も根回ししてくれたお陰で、警察らが切り上げたのだろう。どんな風に権力を使ってくれているのかは知らないが、河東には感謝しかない。  通話を切ると、雪成はスピーディに仕事を終わらせ、自宅マンションへと急いで帰って行ったのだった。

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