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《乱される》2

 電話に出た相手が和泉だと分かると、電話越しにも関わらず雪成の身体が少し熱くなる。 「一時間後にそっちへ飲みに行こうと思うが──」 『待て、お前が来たら俺らは発情してしまうだろ』  店の電話ということもあり、和泉の声が少し小さくなる。 「だから、身体に変化が表れたら五、六分、外か何処かで時間を潰せ」  雪成の横暴とも取れる発言に、和泉は気を悪くするかと思いきや、電話越しで笑い声を聞かせてきた。 『随分と勝手言ってくれるな』 「ちゃんとこうやって事前に連絡してやってんだから、感謝して欲しいくらいだけどな」  お互いが軽口を叩く。まだ和泉のことを何も知らないのに、雪成にはこの気楽さが心地よかった。 『そもそも、その発情している時間が五、六分とか信憑性があるのか?』 「百パーセントかと言われたら俺にも分からん。こんな事初めてなんだ、知りようがないだろ。でもこの三度会って、俺らの発情時間は数分だったし、今回もそうなのか、確かめるのにはいい機会だろ」 『そうだな。分かった。今から一時間後だな、準備しておくよ』  通話を切ると、雪成はソファの背もたれに背中を預けた。 「はぁ……俺は何やってんだ? 関わらないじゃなかったのか? 関わってもろくな事がないのは目に見えてんのに。クソ……」  関わらなければ発情しなくて済む確率が大きいし、会うことによって自分へのリスクが上がってしまう。なら今日は大人しくマンションへ帰るだけだ。  それなのに雪成はいま、中西の運転する車でhopeに向っていた。 「どうしたんですか? ずっとだんまりとなさって」  ルームミラー越しから中西が心配そうに、何度も視線を送ってくる。  すっかり日も暮れて、東京の街並みは夜の顔を新たに見せている。昼と全く違うところは、人間のあらゆる欲が解放されるというところだ。ある意味都心の活動は、今から始まると言っても過言ではないのかもしれない。 「んー? なんか自己嫌悪と反省と、何か分かんねぇ感情と、色々混じって訳が分からん状態」 「それは何とも……。今夜はまっすぐお帰りなっては?」 「そう思ったんだけどな。とりあえず、アイツの正体が何なのか、あれはどういう意味なのか、どれも明確にしないと気持ち悪いんだよな」  中西には全て打ち明けてある。和泉と雪成が今どういう状況なのか。医師の谷原から聞いた魂の番に関しても伝えた。  もちろん魂の番など初めて聞く中西にとっては驚き困惑したが、雪成らの状況を目の前で見ていることもあり、興味深いと言っていた。 「和泉龍成は、hopeが営業している日はちゃんと出勤しているとお伝えしましたが、どうやら勤務時間に決まりはなく、好きな時間に入って好きな時間に退社しているようです」 「ふぅん……」  どうでもいい報告に聞こえるが、こうした細かい情報でも後で有益なものになる事が多い。だから些細なことでも、雪成へと報告される。

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