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《乱される》3

 雪成はそれらを頭の片隅へと置くと、そろそろかと窓の景色を確認した。 「中西、俺が発情モードになったら、時間を計ってくれ」 「はい」  そして以前と同じ場所に来ると、雪成の身体が途端に熱くなってくる。 「……いいぞ……今から計れ」 「はい」  中西はスマートフォンのタイマーで計測を開始する。  熱が上がってくると、雪成の頭の中はもう和泉のことしか考えられなくなる。和泉も恐らく雪成同様、発情の兆候が表れている頃だろう。  和泉との濃厚なキスを思い出すと、たちまち下腹部はエレクトしていく。 「……っ……りゅ……う」  和泉の手が、舌が全身に這い回る。そんな想像が更に雪成のヒートを濃くしていく。  ネクタイを抜くと、雪成はシャツのボタンを開けて胸元へと手を差し入れた。  和泉の唇、舌を追いかけるように雪成の指が滑っていく。  雪成の目元は少し潤み、頬も赤みが差している。薄紅色の唇は半開きで、それは淫靡とも言える妖艶さだ。  フェロモンに当てられない中西でも思わず動揺し、目を逸らさずにはいられない程のものだった。 「か、会長……私は車から出ておりますので」 「え……?」  中西の声で、雪成はここが車中で中西もいる事を思い出す。 「あ、いや……悪い……大丈夫だから……ここにいろ。お前がいなくなったら……計ってる意味がない。いま何分経った?」 「はい……今は三分経っております」 「三分か……」  後二、三分で治まるだろうと思いながらも、今回はお互いの姿を見ずにやり過ごそうとしている。それは果たして有効なのか。雪成は疑問に思ったが、これもその実験になるかとぼんやりとした頭で思った。 「はぁ……っ……」  発情している時間は拷問に近いものがある。勃起している性器にも触れられず、ただただ耐える。  その辺の男女を引っ掛けて処理をしてしまえばいいのだが、雪成には今その発想が全くなかった。ヒートしている時は、もう和泉のことしか考えられない上、他の者に触れられるのは嫌悪しかないからだ。  一秒さえも長く感じたなかで、ようやく雪成の体から熱が引いていく感覚がした。 「ふぅ……」  長い息を吐き、丸まっていた背中を徐々に伸ばしていく。 「会長、そろそろ引きそうですか?」 「あぁ」  暫くすると、あれほどの強い飢餓感と欲情が、嘘のようにまるで波が引いていくように消えていく。 「引いたな。何分だ?」 「五分弱です」 「そうか、サンキュ」  五分とはこんなに長いものだったのかと、雪成は額に浮いた汗を拭った。  店はもう目の前だ。和泉は路地裏か、事務所にでもいるのか姿が見えない。 「そろそろ行くわ」  雪成が身だしなみを整えて言うと、ルームミラー越しから中西が頷いて見せる。 「お気をつけください。今のところ怪しい動きをした人間は確認されていませんが、どこかに潜んでいるとも限りませんので」 「あぁ、分かってる」  中西の忠告を受け取ると、雪成は一人車から降りた。  三月中旬に差し掛かる今日(こんにち)の夜の空気は、まだ少し冷たさが残る。火照った身体に気持ちいい空気を感じながら、雪成は一旦隣のカフェへと入って行った。

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