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《乱される》11

 本当ならば関わらない方がいい。だけど雪成はどうしても和泉龍成という男の正体が知りたかった。  危険なことは百も承知だ。二人きりで朝まで過ごすなど、中西が聞けば卒倒するだろう。  だけどお互いから感じる似た空気。それが二人の思考をさ迷わせていると言えばいいのか、手探り状態になっていることを雪成は感じた。  恐らく和泉個人は雪成に敵意はない。あればわざわざ忠告したり、離れようとはしない。  楽観視し過ぎていようと、何より肌でそう感じている。しかしそれはあくまでも和泉個人のことだが。 「車はここのパーキングに止めて、歩こうか」 「あぁ」  二人は車を降りて、共に歩き出す。時間はまだ二十二時過ぎということもあり、人出もある。二人は人の流れに乗って、ナチュラルにラブホテルへと入って行った。  一番高い部屋を雪成が選ぶと、和泉は文句を言いつつ、迷わずにボタンを押す。その様子からして、部屋代など出すつもりでいるようだ。  こんな些細なやり取りでも、相手の性格などが少しずつ分かってくる。ふとした仕草などが雪成には新鮮に映り、愉快な気分にさせていた。 「へぇ、下で部屋の写真を見た時も思ったが、想像しているより普通の部屋なんだな」 「まぁな。テレビのチャンネルの一部は普通じゃねぇけどな」  雪成がリモコンでテレビを付けると、のっけからセクシー女優の艶かしい喘ぎ声が部屋に響く。 「俺ならこんな声で喘がれたら萎えるな」 「あぁ……不自然だからか?」  和泉に問われた雪成は頷く。 「特にこの女優はな。一定のテンポで喘ぎやがって、ロボットかよ。絶対気持ちいい声じゃねぇだろ。喘げばいいってもんじゃねぇんだよ」  スーツのジャケットを脱いでポールハンガーにかけ、雪成はチャンネルを地上波に変える。  そして二人がけのソファへとどっかりと腰を下ろした。 「アダルトビデオだとか、こういった類いの物は観たことがないが、確かにこんなテンポのいいものは聞いたことがないな」 「え……?」  雪成は驚愕の表情で一瞬止まってしまう。 「おい、待て。まさかエロ動画とかそういうのも観たことがねぇのか?」 「あぁ、ないな」  淡々と和泉は答えるが、全く観ない男がこの世にいる事に雪成は驚きを隠せなかった。実際は生涯観ない人間もいるかもしれないが、雪成の中では考えられなかった。  雪成も結構な数の男女を抱いてきたが、それとこれは別物だと思っている。 「昔……ガキの頃だけど、目の前でおっ始める者がいてな。余りの生々しさと気持ち悪さで、人様のものを見たいという感情すら湧かなくなった。観ると絶対にそいつの顔しか浮かばないのが目に見えているからな。溜まれば自分で相手を見つけてやればいい」  冷蔵庫から缶ビールを取ってきた和泉は、雪成の隣へと座り、一本を手渡してきた。 「ふぅん……」  有難くビールは受け取るも、まさか和泉が自身の過去を話すと思っていなかった雪成は、驚いて陳腐な返事しか出て来なかった。  

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