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《乱される》12

 缶のプルトップを開けて、雪成は口をつけた。久しぶりに飲むビールののどごしが最高だ。  350mlのビールを半分程飲んだ時、雪成の口は自然と開く。 「まぁガキの頃のトラウマなんてものは、なかなか払拭出来るもんじゃねぇしな。他人のものは見られなくても、自分がセックス出来るなら良かったと思うけどな」  一瞬沈黙が落ちるが、和泉は突然噴き出すように声を上げて笑う。雪成はなんで笑うんだと、一人ムスッとした顔を和泉へと見せた。 「何が可笑しいんだよ」 「いや? 慰めてくれてるのかと思ってな」  和泉の膝が雪成の膝に当たる。触れている箇所が何故か熱くなってきて、雪成は不自然にならないよう、そっと離した。 「別に慰めようと思ったわけじゃなくて、マジでセックスまで出来なかったら悲惨だと思っただけだ」 「悲惨か……まぁ、あの快感を知ってしまうと悲惨だと思うのかもな」  和泉のそのセリフに、この男も相当遊んでいるのかどうか、雪成の中で興味が湧く。 「で、アンタは男女どっちもいけるのか?」  この間、地下駐車場で発情もしていないのに、和泉はキスをしてきた。ヘテロならあんなに濃厚なキスを仕掛けてはこないだろう。 「そうだな。女の方が多いが、男もいけるぞ」 「やっぱりって、おいっ!」  突然和泉が雪成へと覆いかぶさって、首筋に顔を埋めるようにして耳朶を噛んできた。ゾクリと甘い痺れに似たものが背中に走る。やはり和泉に触れられると、身体は過剰に反応してしまうようだ。  これも二人の間だけなのか。和泉を押しやり、雪成はその顔を見る。  彼もどうやら何かしら感じるものがあるのか、目の奥に小さな欲の焔が灯っているように見えた。 「言っておくが、俺は男に〝押し倒される〟側じゃねぇんだ」 「そうだろうな。でも俺はお前を押し倒したい」 「ちょ……ん……」  雪成はオメガだが、一般のオメガよりは身体の筋肉もつくし、力もある。それなのに、和泉の前ではなんたる非力さよ。  厚い胸板を押しても、腕を掴んでも微動だにしない、まるで鋼のような身体だ。  思考までもが蕩けるようなキスをされて、雪成の全身にはもう力など入らなくなってしまった。  そして何より和泉の身体が熱い。恐らく雪成よりも熱いと感じるほどだ。もしかして発情しているのではと雪成は焦った。  雪成は一旦離れてくれと、和泉の二の腕を叩いた。 「ぷはっ……」  和泉が渋々といった様子でようやく離れる。お互いの唇には銀の糸が引き、それを和泉は絡めとるように舐めた。 (いちいちエロい奴……) 「あのな……龍のスイッチは一体いつ入ったんだ。て言うか、発情してないよな? 異様に体が熱いぞ」  見れば和泉の下腹部はかなり大きくなっている。だが雪成の身体は和泉に触れられたことで確かに熱いが、ヒートは起こしていない。 「……多分、ラットまではいってない。でも、いつもお前に触れる時は熱くなるが、今はいつもより熱いな」  そう口にする和泉だが、特に自身の身体の異変を重く捉えている様子はない。  ラットでないなら、深刻に考えなくてもいいのかもしれないがと、雪成は首を傾げながらも、ベストを脱いでシャツの腕を捲った。

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