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《緊張》2
そして今に至るわけだが、雪成もそれなりに反省はしている。中西の立場を思うと、やはり一言伝えておくべき事だった。
「昨夜のことは本当に悪かった。たださ、どうしても和泉の事は敵視出来ねぇんだよ。笑いたきゃ笑えばいい」
「いいえ、笑いません。会長の人を見る目ですか? 勘がとても鋭く、一度もそれが外れたことがないのを近くで見てきてます。だから和泉龍成の事も害はないと感じられた事に関しては、私もそれを無下には出来ません」
雪成は思わずポカンと口を開けてしまう。
「口を閉じてください」
「あ、いや、悪い。そんなこと言われたの初めてだからな。ちょっとびっくりしたんだよ」
「和泉が情報としてくれた相手の人間の事に関しても、会長の人の見る目が長けていた事で、ずっと対処なさってこと。私は個人的には会長の能力には、全幅の信頼を寄せておりますので」
「そっか……」
嬉しくてふと笑みがもれたが、中西の顔がまだ怖いため、雪成は直ぐに笑みを引っ込めた。
「ですが、百パーセントの確証が得られるまでは、プライベートで会われる時も必ずご一報ください。何度も申しますが、貴方はお一人の身ではございませんので。今後このような危険なことはされませんように、よろしいですね?」
「はい……」
雪成の返事にまだ疑わしい目を向ける中西だったが、話が他にもあるのか、表情に少しの緊張感が混じるようになった。
「何かあったのか?」
「はい。まだ報道はされていませんが、今から約二時間前、経済産業大臣の田辺が死んだようです」
「死んだ?」
それが本当ならば、これから騒がしくなる。その死に方によっては。
「はい。しかもどうやら殺されたが濃厚のようです」
「殺されたって……大臣が? まさか……」
雪成は眉間にシワを寄せながら中西と目を合わす。中西はそっと頷いた。
経済産業大臣の田辺は、市松組の若頭補佐の山口と懇意にしている。
その付き合いは長く、選挙から何から何まで山口は援助し、そしてその見返りに膨大な報酬金を貰っている。持ちつ持たれつ、その癒着関係は強固なものだった。山口にとって、大きな資金源である田辺を失う事は最大の痛手となっているはずだ。
山口が困ろうが、雪成にとってはどうでもいい事だが、その背景は雪成にとって恐らく無視出来ないものだろう。
突如と雪成の中で胸がざわつく。
「あと、ハッカーのトラに頼んでいた件ですが、向こうにはなかなかの強者 がいるようです。トラが言うには、恐らく仲介を挟んで依頼するようですね」
「まぁ、その方が直接顔を合わすことがないから、当然の事って言えば当然の事だな」
闇サイトを運営するくらいだから、それなりの腕のある人間が運営するだろう事は承知していたが。まさか、凄腕であるトラの腕を持ってしても突破出来ないとはと、雪成はやや肩を落とした。
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