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《緊張》3

 だが雪成にとってそこは重要ではない。初めからサイトから和泉へアクセスしようとは思っていないからだ。  だが、どういうグループなのか、またどのような依頼なのか、依頼者はどんな人物なのかなど知ることが出来たらいいと思っただけに、少し残念であった。 「中西、田辺の背景を調べておいてくれ」 「……分かりました。ですが何故田辺を?」  中西は至極不思議そうな顔で訊ねてくる。普段であれば田辺がなぜ殺されたかなどどうでもいい事だ。だがこれも雪成の勘が働いたことがある。恐らく雪成が思うものに繋がっている。そう思ったのだ。 「色々気になる事があるんだよ」 「かしこまりました」  中西はそれ以上は深く突っ込むことはせず、雪成に頭を軽く下げた。 「この後の予定は、菱本組長とお会いになるんでしたね」 「あぁ」  一時間後には菱本と会う予定だが、本当の詳細というものは知らされていない。先日はあまりゆっくり話せなかったから、酒でも飲みながらゆっくり話そうと、今朝突然菱本本人から、雪成の電話に連絡があったのだ。  菱本と酒を酌み交わすことは、大いに大歓迎だ。しかし今日の呼び出しは、それだけではない様な気がしている。  しかし、会えることには変わりなく、雪成はいいスーツに着替えることまでして、気持ちは高揚していた。  中西は別件の仕事があるため、運転手には麻野が務めることになった。 「今日もいい天気になって気持ちいいですね」 「あぁ、そうだな」  車窓から長閑な風景が広がる。同じ空の下でも数分前に走っていた都会の風景よりも、郊外となると天気も全く違うものに思えてくる。  周囲に大きな建物がなく、田んぼや畑などが広がる地では、太陽の光が自然の恵なんだと強く感じる事が出来た。  自分も歳を取ったら、長閑で静かな場所で隠居生活をしたいとものだと秘かに思う雪成がいた。 「では会長、また終わりましたらご連絡ください。行ってらっしゃいませ」 「おぅ」  車から降りた雪成は、身なりを整えてから数奇屋門をくぐり、中の屋敷へと入っていった。  松山を筆頭に多くの若中から挨拶をされるなか、雪成は菱本がいる座敷までゆったりとした足で歩いた。縁側を歩いていると、美しい庭園もそうだが、若い頃を思い出して、雪成はひっそりと口元を緩めた。 (ここへ来る度に、昔のことばっか思い出すな)  ここから高校にも通わせてもらったり、思春期の体の成長を菱本に内緒で、こっそり桜の木に印を付けたりしていた。バレていたら大目玉を食らっていただろう。  客間である座敷の前に着くと、雪成は浮かべていた笑みを瞬時に消して、腰を落として片膝をついた。 「親爺、雪成です。ただいま戻りました」 「おぉ、帰ってきたか。中へ入れ」 「はい、失礼致します」  菱本の元気そうな声に安堵しながら、雪成は障子をゆっくりと開けた。

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