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第3話 三崎との関係

 俺が14歳になった頃、珍しく1ヶ月以上、母親が帰ってこなかった。  週一で置かれていたお金も、2週ほど間が空いた。  郵便受けには、光熱費の督促状や、家賃の支払いを通知する紙が入り始める。  どうすればいいのかと、集合ポストの前で立ち尽くす俺に、通りすがりの三崎が声を掛けてきた。 「お母さん、帰ってこないの?」  音漏れのするような家だ。  俺の母親が暫く留守にしているコトくらい察しがついていたのだろう。  俺の後ろから、にゅっと伸びてきた三崎の手は、ポストに詰まっている紙の束を引き出した。 「ぅわ。督促の紙ばっかりだね……。俺、立て替えてあげようか?」  言葉に俺は、眉間に皺を寄せ三崎を見上げた。  三崎と俺の関係は、単なる隣人に過ぎない。  三崎だって、20歳そこそこの若者だ。  こんなボロアパートに住んでいるくらいなのだから、金持ちと言うわけでもないだろう。  うちの家賃や光熱費まで払えるほど生活に余裕があるようには思えなかった。 「お金払わないと、ここ追い出されるよね?」  首を傾げた三崎は、俺たちの部屋をちらりと見やり、言葉を繋ぐ。 「ここにいないと、お母さん帰ってきた時、困るんじゃない?」  それはそうだ。  俺がここにいなければ、母親が帰ってきた時に困るだろう。  帰ってくるかどうかなんて、わからない。  ずっと帰ってこないかもしれないし、明日にでも、帰ってくるかもしれない。 「でも……」  三崎にだって、そんな余裕はないはずで。  返答に困る俺に、三崎は言葉を足した。 「立て替える代わりに、俺の仕事、手伝ってくれないかな?」    この頃の三崎は、今の俺と同じ仕事をしていた。  三崎は14歳の俺に、犯罪紛いのコトをさせ、裏の世界に引き込んだ。  でも、俺は三崎に恩を感じても、恨むコトはなかった。  今の仕事のノウハウも、生きていく方法も、三崎が教えてくれたから。  今、俺がこうして生きていられるのは、三崎のお陰だと思っている。  結局、中学を卒業しても、母親は帰ってこなかった。  翌年には、取り壊しが決まり、アパートは解体された。  俺はそのまま、三崎が借りたアパートに転がり込んだ。  あんな母親に育てられたせいか、俺は女に興味がなかった。  中学の頃には、自分の性癖に気づいていた。

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