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第8話 視界も頭もぼやけてる < Side 明琉
苦痛と快感が、身体の中で混ざり合う。
痛いのか、気持ちいいのか、わからなくなる。
自分の身体が興奮に包まれているコトに、驚きが隠せなかった。
女の裸を見ても、なにも感じなかった。
エロいコトをしたいと思った事もない。
そりゃ、なんとなく悶々とする時はあった。
でも、勃っちゃった時は、取り敢えず自分で弄ればスッキリした。
逆に、女に触られた時は、なんだか気持ち悪くて頑張れなかった。
だから、目の前の男に興奮させられているコトが幻みたいに感じていた。
現実味が足りなくて、恥も外聞もなくなった。
だから、塞がれた喉の奥から零れる声を我慢するコトもなく、淫らに喘いだ。
「ほら。ちゃんと見ろよ。お前を啼かしてんのは誰か」
上がりきらない目蓋と涙で霞む視界では、きちんとした形を読み取れない。
肌の上に、輪郭のぼやけた白と黒の何かが見えるだけ。
ガムテープで拘束されたままの両手が引かれ、それに触れさせる。
指先に感じるのは、相手の体温だけ。
オレに負けず劣らず熱くなっているその肌は、浮かぶ汗にしっとりと湿っていた。
「このスミ、覚えとけよ? またお前見つけたら、啼かせるからな?」
よく見えないんだから、覚えようがない。
反論しようにも、塞がれた口では言葉が紡げず、興奮して沸騰している頭には、記憶する気力もない。
「2度と陽葵に近づくんじゃねぇぞ?」
揺り起こすように、ぱしぱしと頬を叩かれ、瞬間的に意識が男に向く。
陽葵…?
こいつ、追い払ったあの男…、じゃないよな。
3日前、オレと陽葵は出会った。
夜間の道路工事現場。
そこの交通整備が、オレの仕事だった。
昼間はそれなりの交通量がある幹線道路だが、夜は1時間に数台の車が行き交う程度に落ち着く。
「なんのためにあんなに貢いでやったと思ってんだよっ」
ふと鳴り止んだ工事の音の隙間に、男の罵声と、パンッとなる破裂音が響いた。
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