10 / 97

第10話 食と住

 仕事を終えて、大きなリュックを背負い、彼女に駆け寄った。 「お疲れ様。助けてくれたお礼に朝ごはん奢ってあげる」  ふふっと笑った彼女は、先に立って歩き始める。  意外に早い彼女の歩測。  意識して歩く速度を上げ、隣に並ぶ。 「あたし、陽葵。太陽の陽に(あおい)って書いてヒマリって読むの。君は?」  顔を覗かれ、流されるままに名を名乗る。 「オレ? 明琉。明るいに琉球の琉でメイル」 「明琉ね。本当、ありがとね……てか、ずいぶん大荷物だね? どっか旅行にでも行く予定だった?」  オレの背負うリュックに瞳を向けた陽葵が不思議そうに首を傾げた。 「ぁあ。違うよ。オレ、お家ないの」  オレの返答に、陽葵の頭には更なる疑問符が浮かんだ。  4年前、母親が再婚した。  再婚相手と出会った頃から、母親がオレを疎ましがっているコトに、気づいていた。  実の母親が疎ましがるぐらいだ、新しい父親がオレを可愛がるはずもない。  3年前には、弟が産まれた。  その瞬間、あの家にオレの居場所は無くなった。  数日家に帰らなくても、なんの心配もされなかった。  そんな毎日に、家に寄りつかない日が増えていった。  王道の人生なら、オレは高校生になっていただろう。  でもオレは、高校進学ではなく家出を選択した。  適当に荷物を積め、メモ用紙に“お世話になりました”と殴り書きを残し、家を出た。  年齢を誤魔化し、夜間の交通整理の仕事(バイト)は手に入れられたが、流石に家は借りられなかった。  オレのざっくりとした説明に、陽葵は、ぽんっと手を打ち鳴らす。 「じゃ、少しの間、ボディガードしてくれない?」  突拍子のない陽葵の提案に、首を傾げた。 「ん?」 「私の家、住んで良いから、職場まで着いてきてくれないかな? ご飯もつけるよ。……明琉なら、えっち込みでもいいけど?」  ふふっと笑った陽葵が、ぐっと顔を近づけてきた。  オレは、反射的に背を反らす。 「いや…、ごめん。オレ、そういうのダメ」  口許を手の甲で隠し、視線を背けるオレに、陽葵は不思議そうに瞳を(しばたた)く。 「ん?」 「…性欲? 薄いっつうか、なんつうか……」  どう説明すればいいのか困り、ぽりぽりと頭を掻いた。  オレの瞳が、困惑のままに揺らぐ。 「絶食系か……」  ぽつりと呟き、すっと身体を引いた陽葵は、深くは追求してこなかった。 「ま、えっちは置いといて。ご飯と住む場所で、ボディガードはしてもらえるのかな?」  軽い感じで問うてくる陽葵に、頷き返した。 「そっちはいいよ」  そんなこんなで、オレは陽葵のボディガードをする代わりに、食と住を手に入れた。

ともだちにシェアしよう!