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第13話 1人だけ違う温度

 慌て身体を起こした男に、ずるりとペニスが抜けていく。 「ぅ、く………」  思わず仰け反るオレの身体。  押し倒すように乗り掛かるオレの頬を、陽葵の両手が包む。 「ごめん、ごめんね。明琉」  うぅっと涙目になる陽葵に、オレの背後からは、おたおたと慌てる空気が伝わってくる。 「ぁ、その。悪ぃ、ぇっと……」  ガシガシと頭を掻いた男は、オレの腰に腕を回し抱き起こす。  そのまま身体を引き起こされたオレは、男の胸に抱き込まれた。  男の胸に後頭部を預け、見上げるオレの瞳に、焦り眉根を寄せた顔が映る。  先程までの皮肉めいた笑みは消えていた。 「もうっ。ばか、ばか、ばか、ばか……」  何をどう言葉にすればいいのかわからないというように、陽葵は同じ単語を繰り返していた。  男に対する苛立ちとオレに対する罪悪感で、ぐちゃぐちゃになった感情のままに、オレの口を塞ぐガムテープを摘まんだ陽葵は、べりっと勢い任せに剥ぎ取る。 「……っ」  痛みに顔を歪めるオレ。  赤くなりヒリヒリと痛むオレの口許に、男の申し訳なさげな視線が降ってくる。  すっとまとめられたままの手を上げ、男の頬に触れた。 「初めて、興奮したかも………」  ははっと小さく笑うオレに、男も陽葵も、呆気にとられた顔をする。  オレだけ、感情の温度が違った。 「あぁ、もうっ」  投げ捨てられていた下着を拾った陽葵が、申し訳程度にオレの股間を隠し、両手を拘束するガムテープをべりべりと剥がす。 「……はぁ。シャワー浴びれる?」  問うてくる陽葵に、オレは掛けられた下着を押さえ、身体を起こす。 「ん……、ちょっと痛ぇけど。いってきまぁ~す」  のそのそとベッドを降り、バスルームに向かう。  衣擦れの音を立てながら、男は身形を整えつつ、口を開いた。 「あいつじゃねぇのかよ。…お前にまとわりついてる害虫の駆除、頼まれたんだけど?」 「え?」  少し喧嘩気味に紡がれる言葉に、陽葵の驚きの声が重なった。  害虫駆除…?  …あのストーカーを追い払うために来たのだろうか。  誰かに頼まれた…ってコトは、あの男と陽葵は、“恋人”って訳じゃないんじゃね…?  気づいた予測に、少しだけ浮き足立つ。 「恒さんが気づかない訳ねぇだろ」 「あー…、だよね。あのコがさ追い払ってくれたんだよね。でも、ちょっと怖いからボディガード頼んだの。住むところないっていうから、住む所とご飯付で。えっち込みでもいいよって言ったんだけど、そういうのダメって言われて…、絶食系だと思ったんだけど……」  不思議がる陽葵の声を背中に、オレはバスルームに足を踏み入れた。  オレも驚いた。  自分の性的嗜好が、こっちを向いているとは……。  男の視線に、ぞくぞくした。  男のやるコトなすコトに、心が炙られ、身体が熱くなった。  身体の重怠さも、受け入れた場所の違和感も、あの興奮の前には色褪せた。  感じた痛みも苦しさも、なんてコトはないと、霞んでいった。  確かに、女の子に興味はなかった。  男性に、…同性に性的な魅力を感じていたとは……。

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