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第14話 落とし前は、衣食住+α

 頭からお湯を被り、汗やなんやを、ざっと流して上がった。  バスルームの横にある洗濯機の上、 干されている洗濯済みの下着を取り、身につける。  バスタオルで、わしゃわしゃと髪を拭きながら、2人の元に戻った。 「お前さ、オレのイロんなる?」  帰ってきたオレに、男が唐突に言葉を放ち、小指を立てて見せる。 「へ?」  突拍子のない男の言葉に、声が裏返った。  きょとんとしているオレに、男が言葉を足す。 「目覚めちゃった感じだろ? 帰る家もねぇみてぇだし……。責任とって、養ってやるよ。性欲も解消してやるよ?」  にたっとした笑みを浮かべる男に、理解するのに時間がかかる。 「それ、あんたがヤりたいだけじゃないの?」  じとっとした瞳を向ける陽葵に、男の瞳が游いだ。  バレたかというように、男がわざとらしく溜め息を吐く。 「はいはい。そうですよ、こいつとヤりてぇよ。でも、衣食住の保証は人違いでヤっちまったコトへと詫びだぞ。ヤりたくねぇっていうなら、手は出さねぇよ」  オレの顔を見た男は、数秒の沈黙を挟み、再び口を開く。 「……なんてな。乗る訳ねぇよな。殴って気が済むなら、殴らせてやるけど……、どうする?」  黙ってしまったオレに、男は提案を撤回した。  贖罪の新たな案は、暴力での解消だった。  どうにかして、オレを襲ってしまったコトへの落とし前をつけたいらしい。 「いや。オレ、別に怒ってないんだけど」  だから、殴りたいとも思わない。  眉尻を下げるオレに、男も気が済まないと言いたげに、顔を歪める。 「オレさ、家では空気だったんだよね。…いや、空気以下の二酸化炭素か。必要なもんだけ取った余り。可愛さ無くなっちゃって、要らなくなったみたいでさ。目障りな不要品だったんだよね」  母親のところにいた頃の自分を思い出し、情けなく笑むオレに、男の顔は厳しさを増す。 「二酸化炭素だって大事だぞ。植物には二酸化炭素必要だろ」  オレが何を言わんとしているのか読み解こうと見詰める男の瞳。  真っ直ぐに見られると、心が騒がしくなる。 「んー、まあね。だからさ、あんたに“女”としてでも必要とされたのは、ちょっと嬉しかったんだよね」  ははっと小さく笑うオレに、男は疲れたように息を吐いた。 「嬉しかったんなら、俺に養われとけよ。ヤりたくねぇなら、ヤらねぇから。こいつのストーカーは、俺が追っ払う。そうなったら、ここにずっと居る訳にもいかねぇだろ。また宿無しだぞ?」  確かに。  オレは今、陽葵のボディガードとしてここに住まわせてもらっている身だ。  陽葵のストーカーが消えれば、オレの居場所も消える。 「……じゃ、養ってもらおうかな。確かに、ずっとここに居るわけにいかないもんね」  ちらりと向けた瞳には、むぅっと唇を尖らせる陽葵の顔が映る。  何を拗ねているのかと、不思議がるオレに、陽葵がぼそりと呟いた。 「トンビに油揚げだわ」

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