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第16話 寂しがり屋

「暫く、帰って来れねぇかも」  話を聞いてみないコトにはわからないが、明日会う依頼者からの仕事は、稀に長期間に及ぶ。  一頻り盛った(のち)、それぞれでシャワーを浴びた。  明琉の晩御飯のおかずである生姜焼きを摘まみながら、ダイニングの椅子に座り、ビールを引っかける。  徐に告げた言葉に、明琉の食事の手が止まった。  口一杯に生姜焼きとご飯を詰め込みながらも、咀嚼の動作を止めた明琉は、ぽかんとした瞳を俺に向ける。 「話、聞いてみねぇとわかんねぇけどな」  もぐもぐと口を動かし、ごくりと口の中のものを胃に落とし込んだ明琉の唇が、むむっと突き出される。 「……何だよ?」  いかにも拗ねていますと言わんばかりの明琉の表情に、少しだけ呆気に取られた。  俺が暫く帰らなかったところで、明琉には何の負荷もない。  逆に、毎日俺の帰りに合わせ、動いている明琉には、帰ってこない方が、洗濯やご飯の準備をしなくて済む分、楽なのではないかとさえ思っていた。  なんで、こんなに不服げな顔になるんだよ。  あ。セックス、出来ねぇからか。  寂しがって拗ねているのではないかと、瞬間的に思考した。  そんな理由からの不機嫌ならば、可愛いヤツだとも思ったが、有り得ないと否定する。  俺たちの関係に、恋愛感情など存在しないのだから。 「そんなに俺が居ねぇの寂しいの?」  揶揄(からか)いの音を滲ませ、言葉を紡ぐ。  こうだと良いという願望が、そんなはずはないと打ち消した希望が、意図せず口から零れていた。  俺の言葉に、明琉は面白くなさそうに宙を睨む。 「……? 図星だった?」  余裕のある風体を装い、つまらなそうに空間を睨みつけている明琉の頭をくしゃりと混ぜる。 「……っ。ち、違ぇしっ」  頭を撫でられる感触に、ハッとした明琉は慌て俺の言葉を否定する。  慌てる明琉の姿に、声を立てて空笑う。  俺は傷ついてなどいないのだ、と。  寂しくないとあしらわれ、少なからず凹んでいるクセに。  解っていながら問うておいて、落ち込むなど馬鹿らしい。  そんな資格、俺にはねぇんだよ……。  たぶん、明琉は寂しがり屋だ。  俺が何をしているのか理解した上で、手伝えるコトがあるなら一緒に行きたいと…、連れて歩けと、せがまれたコトがあった。  さすがに、何をするにも明琉を気にかけながら仕事を遂行するには骨が折れると、連れ歩くコトは無理だと断った。  寂しがり屋でないのだとすれば、家に独りで居ても暇を持て余してしまうといったところだろう。  ……ご機嫌取りに連れていくか。  今回の依頼主である“スズシロ”とのパイプは、持っていて損はない。

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