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第21話 痛みと危険の天秤

 碌でもない稼ぎ方をしている自覚はある。  仕事柄、(うら)みを買わない方が、珍しい。  俺は、人を殺めるコトはしない。  その分、敵は着実に増えている。  さらに、俺は一匹狼で後ろ楯を持たない。  媚諂(こびへつら)うことが苦手だし、裏切られ傷つくくらいなら、初めから誰も信頼しないに限る。  下手な人間の傘下に入れば、なんの問題もない案件ですら無駄に引っ掻き回され、実入りも悪くなる。  都合よく利用されるのも、腹立たしい。  それならば、自分の身は自分で守り、単独でいる方が良かった。  面倒な人間関係も省け、一石二鳥だった。  ただそれは、明琉を誰かに守らせるという手段もないというコトだった。  郭遥の元を離れ、真っ直ぐに家へと帰宅するつもりだったが、予定を変える。  明琉は何の疑いもなく、ついてくる。  路地裏の古ぼけたビル。  外装も所々剥がれ、廃れた印象に拍車をかける。  中へと足を進め、電気の通っていないエレベーターをスルーして、内階段を上がっていく。  3階まで上がり、端の店を目指す。  目的地までの間には、空き部屋がひとつと怪しげな占いの店。  辿り着いた店の扉を開け、声を放った。 「凌空(りく)さん、居る~?」  店の中へ足を踏み入れた明琉は、そこがどんな場所なのかを理解する。  並ぶ器具を見回す姿は、興味津々といったところだ。 「また、何か彫んの?」  明琉の質問と同じタイミングで、奥から暖簾を上げ出てきた凌空は、くすりと笑った。 「久し振りだな、直」  きょろきょろと周りを見回し、落ち着きのない明琉に可笑さを滲ませながら紡がれた言葉に、足が遠退いていたコトに申し訳なさを感じ、軽く手を上げる。 「俺と同じの入れて欲しいんだよね」  ちらりと明琉を見やる俺。  絶妙なタイミングで俺を見た明琉と、視線がかち合う。 「え? は? オレ?!」  明琉は自分を指差し、動揺に瞳を白黒させた。  自分の身体に刺青が刻まれるのだとわかった瞬間、明琉が吠え始めた。 「聞いてねぇっ。こんなん、聞いてねぇ!」  ぎゃんぎゃんと吠えた明琉は、逃げ帰ろうと出口に向かう。  そんな明琉の首根っこを捕まえ、処置台に括りつけた。  こっちの世界で、それなりに幅を利かせている俺の刺青を知らないヤツは少ない。  明琉が俺のものだと知ってまで、手を出そうとする者はいないはずだ。  肌に刻む痛みと、放っておく身の危険を天秤に掛け、明琉の身体に俺のものだという証を刻むコトを決めた。

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