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第22話 違いすぎる経験値 < Side 明琉

 オレの右の脇腹に、白いユリの花が咲いた……。  帰宅した天原を煽るのが、オレの日課になっていた。  身体でしか天原を繋ぎ止めておけない気がして、帰ってくるなり襲い掛かる日々。  ムードに流され獣と化す天原に、どこか安心する。  会えないのが寂しいのかと揶揄われ、ガキ扱いされた恥ずかしさから否定した。  本心を言えば、寂しいに決まっている。  出来るコトなら、ずっと一緒に居たい。  でも、そんなコトを思っているのは、オレだけだ。  天原にとってのオレは、揶揄いがいのあるペット程度。  天原は、間違えて傷物にした代償として、オレを養っているに過ぎない。  暫く帰ってこないのかと残念がる俺に、天原が珍しく、仕事先に連れていってくれると言った。  依頼者のコトは、他言無用だという天原に、勿論だとオレは何度も頷いた。  連れられて入った開業前であろう店。  そこで開店準備をしていた愁実は、凄く綺麗な人だった。  こんなガキ臭いオレより、こういう大人で綺麗な人の方が良いに決まっている。  思わず、不貞腐れた態度を取っていた。  どうやったって、オレはガキだ。  目の前で優雅に振る舞う愁実のような大人の色気など醸せるはずもない。  経験値が、違いすぎる。  戦う前から、敗北が決まっている。  ヤキモチかと揶揄う天原に、勝手に落ち込む感情をコーヒーごと腹の底に流した。  奥の扉から現れた人物に、オレは度肝を抜かれた。  現れたのが、雑誌などで度々取り上げられているスズシログループの御曹司だったからだ。  雑誌の写真やインタビューを見る限り、凄腕の切れ物で、どこか冷めた空気を纏っている人物だと思っていた。  だが郭遥は、天原相手に冗談を飛ばし、その不機嫌さを豪快に笑い飛ばすような男だった。  オレは、あまりのギャップに、気圧される。  天原に、“俺のもん”なんて言われたら、ドキドキしてしまう。  でもそこに、恋愛感情など存在しない。  保護者のような、庇護的な……。  悪戯に揶揄い、オレの慌てる姿に笑っているだけなんだ。  自分だけが、ドキドキしているようで、なんだか悔しかった。  愁実を構いたがる郭遥に、“俺の恋人、綺麗だろう”と自慢された。  “恋人”の言葉が、引っ掛かった。  以前読んだ雑誌には、結婚して子供もいると書かれていたからだ。  オレの不服げな顔色に気づいた郭遥は、あれは世間に向けた表の顔だと、言い放つ。  周りが期待する理想とは掛け離れた現実の自分。  本質の自分を曝け出し生きられるなら、それに越したことはないが、そう簡単にはいかない。  隠して潜んで息苦しさを堪え生きる社会のオアシスを作りたいと、夢を語る。  その夢は、もうすぐ現実となるのだろう。  仕事の話を終えた天原は、オレを彫り師の元へと連れてきた。  天原がまた別の刺青を入れるのかと油断していたオレ。  天原の言葉と視線に、動揺を隠せない。

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