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第25話 緩んだ瞬間

 天原が復讐代行で、時折、単純な暴力ではなく、男の尊厳をへし折るような方法を取っているコトは、知っていた。  精神的に打ちのめされる者もいれば、中には稀に、天原に惚れる者もいた。  好機とあらば、天原を自分のものにしようと動く。  そんな奴らにとって、明琉は目の上のたんこぶでしかない。  ただ、天原のお気に入りとなれば、嫌われたくない奴らは、そう易々と明琉に手は出せないだろう。  他にも、天原が食い散らかし、ボロボロになった所に漬け込むように、手篭めにしようとするヤツもいない訳ではない。  天原から離れた隙に、残り物だと思われ、襲われないとも限らない。  だが、腹に白いユリを持っている明琉をこいつらは襲わない。  逆に、潰されるのがオチだからだ。  ただ、天原の傍にいるというコトは、そういった火の粉が振りかかる可能性が高いというコトだ。  逆を言えば、今まで一匹だった狼に、大事な大事な(つがい)が出来たコトになる。  天原の隙を、虎視眈々と狙っている輩は多く、俺ならば、それを利用しない手はないと考える。 「まぁ、携帯も持たせたみたいだし、刺青まで入れさせたなら、大概は防げるだろ」  一抹の不安を抱きながらも、俺は現状を楽観視する。 「少しだけ……、気に止めといてやってよ」 「ぁあ、わかってるよ」  明琉に愁実との接点を持たせようとした本来の目的は、暇潰しなどではない。  明琉と愁実が懇意になれば、不穏な空気を早めに察知できると感じたからだ。  明琉の身を、…強いては天原を守るためだった。  何もなければ、それに越したことはないが、打てる手立ては講じておいて損はないと考えていた。    明琉と愁実の間に繋がりが出来てから、2年の月日が流れた。  天原は相変わらず、明琉を気に入っているようだった。  俺が依頼する仕事にも、ちょくちょく明琉を連れてくる。  仕事の依頼は、あの後、半月ほどの期間を経て開店したビル1階の完全会員制のバーを利用していた。  明琉は、実質的に仕事に関わるというよりは、愁実に会いに来ているという色合いが強かった。  俺と天原が仕事の話をしている後ろで、仲良くお喋りをしている印象だった。  その知らせは、何事もなく平穏な日々を過ごす中、緩んだ気持ちを察したように、訪れる。

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