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第26話 嫌なアナウンス
「郭遥。ちょっと、こっちに来れる?」
深刻な音が滲む愁実からの電話に、不穏な空気を感じ取る。
「ぁあ。直ぐに行く」
作業中だった仕事は、翌日へと持ち越し、俺はその足で愁実の働くバーに向かった。
店内では、愁実と楽しそうに会話をしながら、明琉がコーヒーを飲んでいた。
「ここは、喫茶店じゃないぞ?」
思いの外、穏やかな空気が充満しているバーに、明琉へと嫌味を投げた。
「わかってるよ。オレがコーヒー飲みたくて来たんじゃなくて、愁実さんに連れてこられたんだよ」
困ったような顔をし、視線を流す明琉の仕草に釣られ、愁実へと瞳を向けた。
俺と視線を交差させた愁実は、苦笑いを浮かべる。
「明琉、少し待ってて。…郭遥」
俺の名を呼んだ愁実は、明琉を店に残し、“VIP ROOM”と書かれた扉を開けた。
実際に、そこに部屋はない。
あるのは、地下の秘密倶楽部、“JOUR”へと続くエレベーターだ。
最近、開店したばかりの“JOUR”で何かあったのかと、俺は愁実に続いた。
「黒藤 が天原の周辺を嗅ぎ回ってる」
地下へと繋がるエレベーターには乗らず、愁実が口を開いた。
愁実の言葉に、俺は眉根を寄せる。
「夕方には戻るって言ったのに、天原が帰ってこないって、明琉がさ。珍しく手こずってんのかなって、明琉は笑ってたんだけど……」
閉じられた扉の向こうにいる明琉へと視線を飛ばし、険しい顔をする。
「なんか嫌な感じかして、天原のマンションに行ったんだ。マンションの側で、黒藤の所にいた男、見たんだよね」
難しい表情のままに、懸念に塗れた瞳を俺へと向けた。
黒藤は、最近勢力を伸ばしてきた半グレ集団の幹部の1人だ。
「何もなければそれに越したことはないけど、あそこに置いておくのは危ない気がしてさ、連れてきたんだ」
黒藤に繋がっている裏ビデオに出演した経験を持つ愁実は、得体の知れない不安に、明琉をここへ招いたらしい。
「ただのオレの杞憂かもしれないから、明琉には1人で家にいても暇だろうって、ここに連れてきたんだけど……」
考えすぎであり何もなかった時に、要らぬ不安を与えぬため、愁実は自分が感じた不穏な雰囲気は明琉に伏せていた。
「天原と連絡、取ってみてくれないか?」
お伺いを立てるように願い出る愁実に、俺は二つ返事で天原へ電話をかけた。
俺の心臓を、ぐっと握るアナウンスが耳に届く。
それは、電源が切られているというアナウンスだった。
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