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第27話 本当の標的

 天原は、仕事で電話を取れない時でも、大事な仕事を逃がさぬようにと、電源を切るコトはない。 「……ダメだな」  通話を切り、繋がらない携帯を眺めた。 「……明琉は一旦、オレの傍に置く」  不安が確信へと変わった愁実は、明琉の身を案じ、あのマンションへは帰さないと紡ぐ。 「黙っているつもりか?」  愁実の言葉のニュアンスから、天原の置かれている現状を、話さないつもりなのではないかと問う。 「…あまり明琉を不安にさせたくないからな。それに、連絡が着かないだけで、もしかしたら、何も起こっていないかもしれない」  連絡が着かない上に、マンションの側を黒藤の部下が嗅ぎ回っているのだとすれば、天原は捕まっていると考えた方がいい。 「ダメだ。黒藤の狙いは、おそらく明琉だ」  捕まっているだろうと仮定し、その上で周囲を探らせているというコトは、黒藤の狙いは明琉で間違いない。 「もし、俺の読みが正解なら、自分自身がターゲットだと認識させないと危ないのは、明琉だぞ」  俺の言葉に、愁実は眉間に皺を寄せながらも、考えうる最悪の事態を明琉へと伝えるコトを了承した。  愁実と連れ立ち、明琉の元へ戻る。 「話、終わったの?」  隣に腰掛けた俺に、明琉はさらりとした声を向ける。 「天原の行方がわからない」  真顔で告げる俺の言葉にも、携帯に視線を向けたままの明琉には、事態の深刻さ伝わらず、返ってくる言葉の音は軽かった。 「探してみるよ。仕事に付いて回ってたから、宛はあるし……」 「ダメだ」  頭ごなしに放った制止の言葉に、明琉は怪訝な顔を俺へと向けた。 「俺たちの読みでは、あいつは捕まってる」  明琉の顔が、ぐっと険しさを帯びる。 「だから、お前は暫くここで(かくま)う」  真摯な瞳を向け、紡いだ俺の言葉に、明琉は理解不能だというように、声を荒らげる。 「は?」

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