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第30話 緒が切れる

 愁実の居所を押さえた俺は、郭遥に報告をした。  あまり表立って動けない郭遥は、事務所との交渉を俺に一任した。  愁実がその事務所に管理されているというコトは、借金のカタに身柄を拘束されているのだろうと踏み、俺は裏取りを進めた。  愁実の出演作は、ハードなものが大半を占める。  郭遥から話を聞く限り、愁実は虐げられるコトに興奮する体質ではない。  借金のために、やらされているといったところだろう。  30代目前の愁実は、年齢的には落ち目だが、事務所は、まだまだ稼げると踏んでいるらしく、手放す気はなさそうだった。  愁実が背負っている借金の利息は、通常よりは高いが暴利と呼べるほどの利率ではなかった。  ただ、実入りが悪ければ、返済も簡単ではなかっただろう。  そんな中でも、愁実は真面目に返済していたらしく、残っているであろう額は、微々たるものだった。  郭遥は、丸く収まるのであれば、その額を肩代わりしてもいいと俺に告げていた。  手放したくない事務所が、簡単に頷くとは思えなかったが、交渉に赴く。  交渉の場に居たのが、黒藤だった。  お互いに代理人となる俺と黒藤で話を妥結(だけつ)させる運びとなった。  当たり前だが、事務所側は提示した金額では満足しなかった。  吹っ掛けてくる黒藤に、裏取りは完璧で、提示額以上を払う気はないと伝えた。  上乗せを匂わせれば、青天井で(たか)られるのが、目に見えていた。  ただ、このままでは平行線で、解決まで時間を要するだろうと踏んだ俺は、上乗せ金の代用として、復讐代行で潰した借金塗れ男の情報を差し出す。  金に困っているこの男なら、愁実の代わりに使えるであろうと、リークした。  俺の独断で出来る譲歩はここまでだと告げ、あんまりごねていると、事務所ごとぺしゃんこになるぞ?と、軽い威圧をかける。  依頼主は明かさないが、それなりの大物であることを示唆してやった。  これ以上の交渉の余地はないと示す俺の態度に、黒藤が渋々折れる結果となった。  下準備から始まり、話運び、手打ちのタイミングまで、すべてにおいて俺が優位にコトを運んだ。  この一件で、俺の腕を買った黒藤は、丸め込まれたと悔しがるのではなく、手腕に惚れたから手を組まないかと誘いをかけてきた。  元々、他人と組むのは(しょう)に合わない上、黒藤自体も裏切り、抜駆け、何でもありで、伸し上がろうとするような輩だという噂を耳に挟んでいた俺は、無下にその誘いを断った。  それからも何度か、仕事上でニアミスすることはあったが、黒藤自身、そこまで俺に固執はしていなかった。  黒藤に一線を越えさせたのは、城野の件だろう。  城野の件を収めるために、俺が売った情報は、黒藤の取引相手のものだった。  黒藤とそいつの間の関係など知らない俺は、なんの躊躇もなくその情報を隠れ蓑として利用した。  俺の仕事は、城野を守るコトであり、黒藤にかかる不利益など知ったコトじゃなかった。  ただ、それは単なるきっかけにしか過ぎず、小さなコトが折り重なり、黒藤の堪忍袋の緒を切ったのだろう。

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