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第34話 すべて俺のせい
俺が落ち着いたのを見計らい、部屋を出た三崎が湯気の立つ小さな土鍋と茶碗、レンゲをトレイに乗せ、部屋へと戻ってくる。
「食べられるかな?」
腹は減っているが、散々に殴られ歯まで折られた俺の口が、それを受け入れられるかは、なんとも言えなかった。
ベッドサイドのテーブルにトレイを置いた三崎に手伝ってもらい、ベッドヘッドに寄り掛かるように身体を起こす。
「ふうふうしてあげようか?」
土鍋の蓋を取りながら、くすくすとした笑い混じりの声を放たれる。
「そんくらい、出来ますよ」
不機嫌気味に掠れた声を返す俺に、三崎は少し安心したように、土鍋から茶碗へと移された少量のお粥とレンゲを差し出してくる。
柔らかく煮込まれたお粥は、噛まなくても飲み込めるレベルで、あらゆる所が痛む口でも食べることが出来た。
ゆっくりと食事を進める俺に、三崎は徐に口を開く。
「郭遥から連絡を受けたんだ……」
黒藤の考えそうな策略と明琉を自分の元で匿っているコトを三崎へと伝えてきた郭遥は、その上で仕事として扱って構わないから俺を探して欲しいと依頼してきた。
「流石に俺が黒藤とやり合うには腕が鈍りすぎてるから、人に頼んだんだ」
くすりと笑った三崎は、言葉を繋ぐ。
「直のコトだから、明琉の心配が先に出るだろうって、聞かれたら“大丈夫”って伝えてって言ってあったんだけど、その通りだったらしいね」
何度か会わせたコトがあったため、三崎も明琉を全く知らない訳でもなかった。
いや、三崎のコトだ。
俺が明琉を想っているコトくらい、お見通しだったのだろう。
明琉のコトしか頭にないと、見透かされている自分が恥ずかしくなる。
ふと憂いた色を瞳に浮かべた三崎が、言葉を繋いだ。
「ごめんね。黒藤、潰しきれてないんだ。直を連れ出してくれた彼ね、俺のコト大好きで、俺の頼みなら喜んでやるよって言ってたんどけどさ、不意打ちならイケるかもしれないけど、真向勝負で潰すのは無理だって渋られちゃってね」
三崎は、ふぅっと悩ましげに溜め息を吐く。
「それでも、直の身柄だけは何とか取り戻してくれた訳だし、デートぐらいはしてあげないとな……」
ふふっと小さく笑った三崎は、デートとは名ばかりで、なし崩しにセックスに持ち込まれそうだ、と呟く。
他人事のように話す三崎の口振りに、俺の胸に罪悪感が宿る。
「俺の、せい…ですよね」
口許へと運んでいたレンゲが、茶碗の上で止まる。
「直が気にするコトじゃないよ。別に減るものでもないしね。…こんなオジサン相手にして何が楽しいんだろうなって思ってね」
くすくすと三崎は、心底可笑しそうに笑う。
「なんか、昔の直の相手してるみたいで少し楽しいんだ」
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