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第37話 ぬるま湯に浸かってたかった < Side 明琉
夕方には戻ると言ったのに、帰ってこない天原に、漠然とした不安が胸に巣食っていた。
でも天原に限って、身に危険が及ぶなどありえない。
珍しく手こずっているだけだろうと、楽観的に考えていた。
1人でいても暇だろうとオレを連れ出した愁実。
天原のいない家にぽつんと残されていた時間、無駄に胸がざわついていた。
悶々とした不安に襲われながら、家で待つくらいならばと、オレは愁実に連れられ店に赴いた。
オレが着いてから1時間も経たずに、郭遥も店を訪れる。
“VIP ROOM”と書かれた扉の向こうから戻った2人に、話は終わったのかと問うた。
天原の行方がわからないと告げてきた郭遥に、オレは携帯に視線を向けたままに、自分も探してみると返した。
次の瞬間、郭遥の堅い声が飛んでくる。
天原は捕らえられているだろうから、オレを匿うと宣う郭遥に、意図がわからず顔を顰めた。
オレが狙われているという言葉に、眉間には皺が寄るばかりだ。
オレは、天原が危ないと判断した仕事には、同行していない。
誰かの恨みを買うようなコトをした、覚えもない。
なのに、狙いがオレだと言われても、話が繋がらず、理解など出来るはずもない。
オレが天原の“弱点”だと言い切った郭遥に、どこをどうしたらその結論に辿り着くのかと、歪む瞳を向ける。
脇腹の刺青に触れられ、オレは天原の“宝物”だと言われた。
この刺青は、オレの身を守るものであり、天原が“これが俺の宝物だ”と、自慢げに言い触らすためのものだと告げられた。
これは、天原の独占欲だ、と。
天原から注がれていた情は、“愛”を含むものなのだ、と…理解した。
もっと早く、気づきたかった。
気づいていれば、もっと大胆に、もっと素直に、オレの気持ちも曝け出せた。
負い目から、オレを傍に置いているだけだと思っていた。
でも、たったあれだけのコトで、こんなに長く罪悪を感じ、オレを養い続ける必要などなくて。
……気づいていた。
天原が、オレを大事にしてくれてるコト。
でも、“好きなわけじゃない”と否定されるのが怖くて、見ないふりをしていたのは俺で。
自分が傷つくのが怖くて、天原の想いを見てみないふりをしていた。
何もしなければ、この関係は変わらない。
何もしなければ、壊れるコトもない。
“好きだ”という感情の爆弾を投下し、オレたちの関係が、絶たれてまうのが怖かった。
それならば、なんの進展がなくとも、このままでいられる現状というぬるま湯に浸かっていたかった。
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