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第40話 稼ぎ頭と穀潰し
三崎の運営するレーベルは、演者の管理もしており、店には演者が多く在籍している。
両方の予定がわかるため、シフトを組むのが楽らしい。
特にこの店は、名刺にも書かれていたゲイビデオの演者が多い。
「羽雨ちゃんは、うちの稼ぎ頭だよ。直は、うちの居候」
ヒモかな? と呟き笑う三崎に、羽雨は軽蔑の眼差しを俺に向ける。
「……なんも言えねぇわ。事実だしな」
ふっと自嘲し、三崎が淹れてくれたビールを呷る。
「直、そろそろ仕事始めてくれないかな?」
三崎の言葉に、俺は顔を顰める。
恋しい人と離れるという選択をした俺に同情し、情けをかけてくれていたが、そろそろ擦り切れたといったところだろう。
でも、また俺に前の仕事が勤まるとは、思えなかった。
「昔の仕事に戻れって言ってる訳じゃないよ」
足された言葉に、俺は意図を探るように三崎の顔色を窺う。
「俺がメディア業界のレーベル、何本か持ってるの知ってるよね? 羽雨ちゃんが渡した名刺にも書いてあるけど、そのレーベル、直に譲ろうと思ってるんだ」
「は?」
突拍子のない三崎の思惑に、俺は素っ頓狂な声を上げた。
俺の横で、羽雨も驚きを隠せない表情で三崎を見やっている。
羽雨から貰った名刺に視線を落とす。
「いや、今すぐって訳じゃないよ。ノウハウもわかんないだろうし。だから、暫くそこで働いてみて欲しいんだよね」
納得のいかない顔で名刺を見やる俺に、三崎は言葉を付け足した。
「身体を売れ、…と?」
こんな傷だらけの、火傷痕まであるような俺の身体が売れるのか? と、自分にそんな価値はないだろうと思わず問う。
「直。そういう言い方は、どうかな?」
厳しめの顔で羽雨をちらりと見やる三崎に、釣られるように瞳を向け、慌て取り繕おうと口を開く。
「あ、いや……」
「別に、いいですよ。その通りですから。オレは、この身体を売って稼いでるんで。でも、他の子が聞いたら気分、害しそうですけど」
開きかけた口に、羽雨の言葉が重なった。
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