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第44話 あからさまな誘い

 27階の自室に帰り着き、靴を脱ぎながら口を開いた。 「もう、面倒なんで敬語やめていい?」  免許証で確認した年齢は、天原の方が8つも年上だが、この業界ではオレの方が先輩だ。  それに、これから一緒に暮らす相手に、敬語を使い続けるのは、苦だった。 「ん? お好きにどうぞ」  そんな細かいコトはどうでもいいというように、さらりとした声が返ってきた。  翌日、三崎が天原の数える程度の衣服を、家に届けてくれた。  本当にボストンバックひとつに入る程度の服しか持っていないようだった。  届けられた服の中から、だほっとしたトレーナーと依れているジャージを取り出し着替えた天原は、ぼうっとテレビを眺めている。  どこにも出掛ける予定の無い天原は、洗い晒しのボサボサ頭で、バーに来たときのような洒落た雰囲気は微塵もない。  オレもオレで、家でまで着飾るつもりもなく、部屋着のスウェット姿なので、文句を言うつもりもない。  部屋に響く少し甲高い男の喘ぎ声。  とりあえず勉強がてらにオレの所属するレーベルの映像を見せていた。  今見ているのは、オレが出ているものじゃない。  オレは自然と、抱かれる男に自分を重ねる。  男を受け入れ、与えられる快楽に溺れる。  真上から瞳を覗き込まれ、顔を両手で包まれる。  可愛いと囁かれ、その言葉にすら快感を拾う。  なんかムラムラしてくんな。  ソファーの隣に座っている天原をちらりと見やった。  じっと微動だにせずに、画面を見ている天原。  悶々としているというよりは、授業を聞いている真面目な学生といった雰囲気だ。  少し煽れば、その気んなるかな……?  そんな下心だらけの思いで、天原に声をかける。 「……なぁ。あんたは男、抱けんの?」  三崎に任されたから、仕方なくビジネスとして、この仕事に関わるのか。  プライベートな趣味と実益を兼ねた願っても無い仕事なのか。  後者なら、この人とシてみたいと…、天原に抱かれたい思った。 「オレと…、シない? あんたなら、抱かれてもいいよ?」  投げ出されている天原の手に手を重ね、指の間を擽る。  訝しげな瞳を向ける天原の肩に頭を預け、あからさまな上目遣いで、誘いを掛ける。

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