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第47話 足りない度量 < Side 天原
そんなに魅力が欠けているのかと寂しそうに問うてくる声に、羽雨を傷つけてしまった気がした。
羽雨に色気を感じないという話じゃない。
寧 ろ逆だ。
冷たく突き放すように話すクセに、その中身は、優しさが見え隠れする。
抱き寄せる手など突っ跳ねそうな雰囲気のクセに、少しの強引さを乗せれば、黙って腕の中に収まる。
思ったほど淡白でもなく、予想外に甘えたな雰囲気を醸す。
羽雨の言葉も仕草も、纏う空気とのギャップを孕んでいた。
俺の興味を刺激する充分な色香を持っていた。
俺は、明琉と別れてから、セックスが出来なくなっていた。
勃たない訳でもないし、ムラムラしない訳でもない。
だが、いざ本番という場面で、古い火傷の痕が疼き、心が引っ張られた。
大切なものを壊されるかもしれない恐怖が、焼かれ潰された刺青から溢れ、熱くなったはずの感情が端から凍りついていった。
傷つけてしまったであろう贖罪に、俺はされるがまま、羽雨の煽りを甘んじて受け入れる。
この空気感なら、羽雨を抱けるかもしれないという自分に対する淡い期待が、胸に拡がっていく。
俺を煽る羽雨は、愛でたくなるような可愛いさというより、腹底を炙るような艶 やかさを侍らせていた。
明琉の天真爛漫さとは違う、どこか影のあるような謎めいた色気に、心が擽られた。
羽雨に誘われて堕ちなかった男など、いないだろうと思わせるほどに色っぽく、本能が溢れ出すくらいには、蠱惑的だった。
だが。
右胸に触れた羽雨の左手が、傷痕独特の痺れるような鈍い感触をもたらす。
じわっと拡がった感触に、興奮を押し退けるように恐怖が覆い被さってきた。
囚われた時に感じた恐怖が、潰された刺青から、ごぽりと溢れた。
溢れた恐怖が、俺の喉を塞ぎ、息苦しくなる。
ぞわぞわとする寒気が背を走り、目の奥が熱い痛みに見舞われる。
指先が、凍えたように震え始めた。
「悪ぃ。やっぱダメっぽいわ……」
紡いだ言葉に、羽雨の瞳が俺の顔を見やった。
交差した視線に、羽雨の自信が砕ける音がした。
抱けるものなら、抱きたいと思った。
だけど、触れられた胸許の鈍い感覚に、あの時の心情が逆流し、俺の身体を冷やしてしまった。
苛立ちを滲ませた羽雨は、裏切られた期待に、俺の隣に身体を戻した。
その中心で、硬く勃ち上がり、興奮を如実に伝えるペニス。
簡単に引かない熱を処理するには、俺の身体を差し出すのが早いだろうと紡いだ言葉は、余計に羽雨を苛立たせる。
「あんた、ネコじゃないでしょ」
面倒臭そうに、不機嫌な感情を隠すコトなく放たれた。
ほんの一瞬、空気が揺れ、羽雨の言葉が続く。
「それにオレは、抱いてほしいの………」
紡がれたその言葉は、羽雨の本心だと思った。
思わず漏れてしまった本音に、羽雨の瞳が游ぐ。
お前のせいじゃないと伝えたいのに、俺が謝れば、魅力が足りないせいだと責めるコトになりそうで、何も紡げない。
俺には、寂しそうに丸まる羽雨を抱き寄せるコトしか出来なかった。
甘えたいのに甘えられない意地っ張り。
そんな羽雨の虚勢を蹴散らし、我儘なくらい素直に甘えさせてやりたいと思ってしまった。
そんな度量など、持ち合わせていないクセに。
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