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第48話 三崎のおつかい < Side 羽雨

 三崎の一存で、一緒に暮らし始めて3年の月日が過ぎていた。  オレと天原の関係は、変わらない。  天原は、“付き人”を卒業し“監督見習い”程度にまではステップアップしたが、オレの家から出てはいかなかった。  初めて誘いをかけた時、震える手で拒まれたオレは、それ以来、天原の前で色気を見せたコトはない。  オレと天原は、職場の同僚という関係で、それ以上でも、それ以下でもない。  今以上の関係を求め、天原を苦しめるくらいなら、オレはこのままが良いと目を瞑る。  天原を好きでいるコトは自由だから。  “好きだ”というオレの気持ちを悟られなければ、きっとこのまま一緒にいられるはずだから。  バーでの仕事が終わり、帰り支度をするオレを三崎が呼び止めた。 「羽雨ちゃん、ちょっと“おつかい”頼まれてくれないかな?」  三崎の含みのある言い方に、オレは訝しげに鸚鵡返しする。 「“おつかい”、ですか?」 「ヤバいコトを頼みたいとかじゃないよ?」  オレの反応に、三崎は可笑しそうに笑いながら、懸念を一蹴した。 「羽雨ちゃんと同じレーベルで働きたいってコがいるんだけど、そのコがやっていけるかどうか見てきてほしいんだよね」  俺よりも羽雨ちゃんの方が適任だと思うんだ、と三崎は綺麗に笑む。 「見てきて…? 面接に呼んだりとかじゃないんですか?」  出演したいのであれば、自分から売り込みに来ればいい。  なんでこちらが出向かなければならないのかと、オレは首を傾げる。 「そのコがいる場所が、ちょっと特殊…なんだよね」  少しの間を空けた三崎の瞳が鋭くなる。 「羽雨ちゃんは口が堅いし、約束は守れる人間だと思ってるから話すけど……」  そう前置きをされ、オレは“JOUR”という秘密倶楽部の存在を知らされた。  完全会員制のゲイ風俗、“JOUR”の存在は、噂程度には聞き齧っていた。  ある大きなグループ企業の御曹司が、秘密裏に運営しているらしいその場所の会員は、上流階級のお偉いさんばかり。  会員たちにとっての“JOUR”は、生きづらい日常の中で、唯一肩の力を抜いて良い場所…オアシスとして位置づけられている。  存在しないはずの幻のオアシスだと思っていたのだが、実在するコトを教えられた。  ある大きなグループ企業が、あの有名な“スズシログループ”であるコトも同時に伝えられた。 「JOURには、借金を返すために働いてるコが多いんだけど、返済が終わった後の職として羽雨ちゃんみたいな仕事をしたいってコが、たまにいるらしいんだ」  ふふっと小さく笑んだ三崎は、言葉を繋ぐ。 「そういうコを、うちで雇ってくれないかって話が来てるんだよね。で、そのコがうちで働けそうか、話を聞いてきてほしいんだ」  どうかな? と、首を傾げる三崎に、オレで良ければと声を返した。 「JOURに関しては、一切他言無用なのは当たり前なんだけど……」  一度言葉を切った三崎は、立てた人差し指を唇の前に差し出す。 「特に直の前で、JOURの名前、出さないでね」  冗談めかした軽い感じで紡がれた言葉だが、きっと何か触れてはいけない理由があるのだろうと、オレは黙って頷いておいた。

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