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第49話 白シャツに透ける
“JOUR”側から指定された場所は、時間単位で場所を貸し出しているレンタル会議室だった。
ガラス扉を開けた目の前に受付があり、そこに座っている女性に名を告げる。
「夕波様ですね。右手に進んでいただき、“A02”の扉にお入りください」
オレの名を確認した受付嬢は、進む先を手で誘導しながら、カードキーを渡してくる。
指示された“A02”のミーティングルームに入った。
3畳ほどの部屋には、簡素なテーブルを囲うように、4脚の椅子。
取り敢えず、適当な場所に腰を下ろし、相手が来るのを待っていた。
コンコンッと小さなノック音の後に、扉が開く。
慌て入ってきた男は、ノーネクタイだが薄手の白シャツに紺のジャケット姿で、サラリーマンのような格好だった。
手に持っているのも、ビジネスバッグで足元は革靴だ。
「遅れて、すい……ぅわっ。羽雨ちゃんだっ」
オレの顔を確認した男は、驚きと喜びを乗せた声を放った。
「オレ、堅苦しいの苦手でさ。同世代だし、砕けた感じで良いよね?」
脱いだジャケットを椅子の背に掛けた男は、シャツの袖を捲る。
一気にカジュアル感が増した。
高めの身長に無駄のない体つき、美人というよりは可愛い顔だ。
砕けた感じで良いという男に、オレもラフな言葉遣いで声を返す。
「オレのコト、知ってんだ?」
名刺を取り出し渡すオレに、相手は口頭で名を名乗る。
「“委員長の小鳥”シリーズ、全部見てるし。オレは、浅岡 明琉。明るいに琉球の琉で明琉、ね。明琉で良いよ」
アイドルにでも会ったかのように、高めのテンションで話す明琉に、“ありがとう”と形ばかりの礼を伝えた。
明琉の言う“委員長の小鳥”シリーズとは、生徒会の委員長に扮したオレが、次々と生徒を喰っていく話だ。
ネコ側を主体として撮影されるので、タチであるオレが映るコトは少ないが、こうして認識してくれている人がいるのは、胸がむず痒くなる。
「明琉が、働きたいの?」
問うオレに、明琉は首を横に振るった。
「あ、いや。違くて」
ポータブルのDVDプレイヤーを鞄から取り出し机に置いた明琉は、ガタガタと椅子を引き摺り、オレの横に腰を下ろす。
脇に置いた鞄からDVDを取り出そうと伸びた身体。
白いシャツに透け、右の脇腹辺りに何かが浮かぶ。
色づいて見えるそこに、無意識に手を伸ばしていた。
触れたオレの手に、明琉はDVDを片手に瞳を向ける。
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