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第53話 抱える不安

 打ち合わせを終え、“JOUR”へと帰ってきた明琉は、俺の顔を見るなり口を開く。 「羽雨ちゃんに会っちゃった」  興奮気味に紡がれた名前に、俺は首を傾げた。 「あ、天原じゃなかったよ。あの“委員長の小鳥”シリーズでタチやってる羽雨ちゃんだった」  ジャケットのポケットを漁った明琉が、1枚の名刺を俺へと差し出した。  明琉から渡された名刺には“夕波 羽雨”の文字が記されていた。 「三崎さんの所で使ってもらえるかは、まだわかんないや。紙媒体は持ってったから、一応、見せんのは三崎さんだけにしてとは言っておいたよ」  持って歩いていたビジネス鞄から、ポータブルのDVDプレイヤーを取り出し、片付けながら、ざっと経緯を伝えてくる。  鞄も近くの棚へと納めた明琉は、右の脇腹に手を添え、少し困ったような顔をする。 「なんか、すげぇ興味持たれたんだよね……」  手の仕草から、それが脇腹の刺青であろうコトを察した。 「羽雨ちゃんは三崎さん所の人だし、今さらオレを餌になんて考えるヤツもいないと思ったから、見せてあげたんだけど」  むむっと顔を顰めた明琉は、悩みながら言葉を繋ぐ。 「たぶん、純粋な興味だとは思うんだけどさ。凌久さんの所で入れたって教えちゃったんだよね。…凌久さん、変なコトに巻き込まれないかな?」  不味かったのではないかと、不安を漏らす。 「変なコト……?」  明琉の意図する不都合が何かわからずに、俺は首を傾げる。 「もしかしたら天原の居場所わからなくなって、彫師経由ででも情報を集めようとしているとか……。てか、ないと思うけど羽雨ちゃんが同じの入れたりしたら、狙われたりしないかな?」 「ぁあ、そういうコトか」  心配げに眉根を寄せる明琉に、俺は軽い相槌を打った。  確か、礼鴉なら家ぐるみで凌久との接点があったはずだ。 「礼鴉に、それとなく探ってもらうか……」  そろそろ礼鴉も出勤してくる頃だろうと、腕時計に瞳を落とす。 「なんか、ごめん……」  申し訳なさげに俺を見詰めてくる明琉の頭をくしゃりと混ぜた。 「気にすんな」  礼鴉に探ってもらった結果に、俺は少しだけ不安を抱えるコトになった。

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