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第59話 どう思われたって構わない < Side 羽雨
天原の心の奥に眠っているのは明琉だった。
オレの人生を狂わせるかもしれない刺青など、消してしまえと言われた。
明琉の腹には刻まれたままなのに、オレの足からは消し去るなんて嫌だった。
同じ土俵に立てないとしても、引けを取りたくなかった。
それに、オレの人生など初めから狂っている。
今さら、刺青の1つや2つ増えたところで、なにも変わりはしない。
「失うくらいなら初めから持たない方がいいんだよな。大事なものなんて、……」
何もかもを諦めたように紡がれた天原の声色は、放っておいたら儚く消えていってしまいそうで、オレを不安にさせた。
「寂しいコト言うね? オレは、そんなの嫌だけどね。突き放されても、蹴飛ばされても、意地でしがみついて傍にいる方を選ぶ。オレは、あんたに失う寂しさなんて与えない。ウザいくらい、まとわりついてやるよ」
天原の存在を確かめるように、オレはその膝に頭を乗せ横になる。
虚勢が剥がれ、寂しげな心が露になった瞳がオレを見下ろす。
両手を伸ばし、天原の頬をそっと包んだ。
「オレはあんたの大事なものじゃないけど、あんたはオレの大事なもの。……オレは好きだよ、あんたのコト」
本当は、好きだなんて伝えるつもりは、なかった。
好きでいるコトは自由だと思っていたけど、オレの気持ちが伝わってしまったら、終わりが見える。
白か黒か。
そこにグレーは存在しなくて。
付き合うのか、離れるのかの2択しか残らない。
オレの言葉くらいで、天原の心を治せるなどと思ってはいない。
……オレを抱けない天原は、きっと離れるという選択をしてしまう。
でも、あまりにも寂しそうに見詰めてくる瞳に、天原を必要としている人がここにいると伝えたくて。
好きになってくれなくてもいいけど、好きでいるコトは許して欲しいと、想いが零れ落ちていた。
オレの告白から半年ほど経った今。
始まりもしていないけど、終わったと思われた関係は、なにも変わらず続いている。
天原は、未だにオレの家に住み、傍に居てくれる。
天原の気持ちは、わからない。
意地でしがみついて傍にいると豪語したオレに、離れても連れ戻されるとでも思っているのかもしれない。
それでもいい。
離れていかないのであれば、傍にいさせてもらえるのであれば、どう思われたって構わない。
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