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第62話 変わらない男
背後で、店の扉が開く。
「……天原?」
名を呼ばれ振り返った俺に、ははっと郭遥の笑い声が響いた。
「久し振りだな。元気だったか?」
歩み寄った郭遥は、ブランクを感じさせない距離感で、俺の背をパンパンっと叩き、隣に腰を下ろした。
今まで、“VIP ROOM”の扉から現れるコトの多かった郭遥が、店の出入口から入ってきたために反応が少し遅れた。
腰を据えた郭遥は、俺を追い越し羽雨へと視線を飛ばし、小さく手を振るう。
振るわれた手に、羽雨は小さくお辞儀を返した。
「お前は可愛いコを連れ歩くの、本当好きだな」
揶揄いの音を含んだ声で紡がれ、俺は辟易気味に言葉を返す。
「俺の“悪趣味”みたいに言わないで下さいよ。何年も音沙汰のなかった俺からアポを取るより、羽雨経由の方が、話がスムーズだと思っただけなんで」
罪悪感も忘れ、昔のノリのままに声を放っていた。
明琉のコトを押しつけ、連絡を断った。
無責任だと、責められてもおかしくない。
こんな横柄な態度を取れる立場じゃない。
あまりにもフランクな郭遥の対応に、調子を狂わされ、不義理を働いてしまったコトを謝ろうと訪れたのに、完全に出端を挫かれた。
「今日はレーベルの管理を任されたんで、挨拶しに来ただけですよ。てか、何年もご無沙汰して、すいませんでした」
頭を下げる俺に、郭遥は不気味なものにでも出くわしたかのように声を歪める。
「お前らしくねぇな。なに企んでやがるんだ?」
冗談交じりの郭遥の声に、懺悔の思いが薄れていく。
「…なにも企んでないって。そうやってすぐ揶揄うの悪いクセですよ」
頭を上げながら、じとりとした瞳を向ける俺に、郭遥は相変わらず快活な声で笑った。
あまりにも軽い郭遥の対応に、知らずに入っていた肩の力が抜けていく。
「今後ともご贔屓に。……メディアに出たいってコが出てきたら、今まで通り羽雨に連絡くれればいいんで」
隣に座る羽雨の頭に、ぽんっと手を乗せる。
「その件は、俺じゃなくて明琉が管理してる」
お前が羽雨に任せているのと同様に、こちらは明琉に任せているのだと、ちらりと“VIP ROOM”の扉を見やった郭遥は、言葉を繋ぐ。
「直接、話してくか? もしかしたら、また誰かがそっちに行きたいって言っているかもしれないしな」
明琉に会わせようとしてくる郭遥。
俺はバツが悪げに、視線を逸らす。
「オレ、話聞いてきますよ」
何度となく、打ち合わせのために“JOUR”に入ったコトがある羽雨が、ゆったりと腰を上げた。
羽雨の動きに促されるように、グラスを磨いていた愁実が、カウンターの下から1枚のカードを取り出し、手渡した。
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