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第65話 そこにいるのは < Side 羽雨

 明琉に会うコトに、戸惑いを見せた天原。  躊躇する天原を尻目に、オレは先んじて手を上げた。  出来るコトなら、天原と明琉を再会させなくなどない。  再び会ってしまえば、天原の気持ちが戻らないとも限らない。  いや。戻るという言葉は正しくない。  天原の心は、ずっと想い続けているのだから。  そこには、ずっと明琉が住んでいる。  愁実に渡されたカードをエレベーターの操作盤に翳す。  動いたエレベーターが止まったのは、地下1階。  “JOUR”で囲っているキャストたちが生活している場所だ。  明琉も、その一角に部屋を持っている。  扉を軽くノックし、声を掛けた。 「羽雨だけど。入っていい?」  開けた扉の先、パンツ一丁でベッドに座っている明琉は、寝癖で髪が跳ねている頭をガシガシと掻く。 「はよ」  ふぁあっと豪快に欠伸をする明琉。  ぐっと伸びをした明琉の脇腹には、白いユリが映える。 「お前、だったんだな……」  明琉の脇腹から、無理矢理に視線を剥がす。 「……なに?」  半分寝ぼけた声で問うてくる明琉に、オレの瞳はウォールシェルフに綺麗に並べられている“委員長の小鳥”シリーズのDVDを舐める。  一番端に置かれていた最新のDVDを手に取り、明琉を振り返った。  きょとんとオレを見やっている明琉の目の前にパッケージの背面を曝す。 「“天原 直”、知ってるでしょ?」  監督の欄にある天原の名前を指し示してやった。  シリーズとして揃えているDVDであれば、わざわざ監督の名など確認していないだろう。 「……ぇ? は?」  三崎と天原が繋がっているコトを知っているであろう明琉。  “委員長の小鳥”シリーズを出しているメディアが三崎のレーベルであるコトも認識している明琉であれば、この名が自分の知っている天原だと容易に結びつく。 「そう。お前の知ってる“天原”だよ」  オレの言葉に、明琉は瞳を細め微笑んだ。 「レーベル自体を三崎さんから譲り受けて、挨拶に来てる。今、上にいるよ」

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